第8話 巨人兄弟との会話




「おい、おまえ!」




 ビクっ!




 突然目の前の巨人から大きな声で話しかけられた。


 ちょっと……びっくりさせないでよ……!




「喋れるんだろ?なんなんだお前は!」




 キ~ンと耳に響いた。


 もう!あんまり大きい声で喋らないでくれる……?耳に響くんだけど……


 大体、なんなんだお前という台詞はこっちの台詞よ。本当はすぐそう聞き返したいところだけど……一瞬躊躇した。

 もし、私の想像が正しければ、ここは私の知っている世界ではない。彼らの身なりからしてもそれは明らかだ。とても現代日本とは思えない、粗末な服装を着ている。

 

 年は2人とも20代後半から30代前半といったところ。くたびれた上着に薄汚れたシャツ、長ズボンに腰巻を付けている。履いている靴もボロボロだ。とても裕福な人達だとは思えなかった。顔も明らかに日本人ではない。西洋の国に近いかな?人種を聞かれても困るけどさ。それに直感的にだけど、あんまりこの人たちと関わりたくない気がする。


 なんとなくだけど嫌な感じがする……

 相手を威嚇するようなこの態度といい、ギラ付いた目付きといい、良い印象は受けない。だけど、この状況だと……変に波風立てたくないな。


 どうしようか……




「おい!聞こえないのか!?」


「うるさいわね!!聞こえているわよ!!!」




 逆切れした。


 無理。私の性格上大人しくやるなんて無理だわ。でも、そのおかげで相手も怯んだみたい。




「おっ……おう聞こえているんならいい」


「兄貴……気が強い、妖精だね……」




 一瞬怯んだ後、2人して何かこそこそと話している。取り合えず、少しはこれで会話の主導権奪えそうね。普通なら、自分より圧倒的に大きい巨人を相手にすれば怖くてこんな威嚇のようなことは出来ない。だけど、この2人は私が飛び起きた時にびびって腰を抜かしていた。

 

 強く出ればもしかしたら……って思ったけど、成功した様ね。


 

 ちょっと余裕が出来たので、辺りを見回してみた。ここはどこかの広場だろうか?すぐ近くに噴水が見える。子連れの親子の姿や、杖を突いた老人。子供たちがキャーキャーと遊んでいる姿なんかが見えた。いずれも全員巨人だった。大人は私の体格の十倍はあるだろう。


 巨人の世界なの?ここは?それともあるいは……


 そう考えている内に目の前の巨人たちはすぐに調子を取り戻したようだ。そして、兄貴と呼ばれた男が私に話しかけてきた。




「おめえ・・・妖精か?」




 私は少し考えた後、回答した。




「……そうよ」


「やっぱりそうか!なんでこんなところにいる?なんでおめえはしゃべれるんだ?」


「私は妖精王様によって特別に作られた存在なの。今はここで妖精王様を待っていたところなのよ」




 完全な口からの出まかせだった!


 だけど、ファンタジーだったら何でもありでしょ?

 相手は妖精とやらの事をよく知っていないようだし、思いついた事を適当に言っても信じるかもしれない。それに騙しだましの腹の探り合いは無理だが、こういう大はったりだったら行けるかも……


 この場を切り抜けられるんだったら私は何でもやるつもりだった。




「ようせいおう……?」


「そうよ。私達妖精たちの主よ」




 目の前の巨人たちはお互い顔を見合わせた。妖精王の存在を疑っているんだろうか?兄貴と呼ばれた巨人が再度私に尋ねてくる。




「聞いたことないんだが?そんな奴が本当にいるのか?」


「いるわよっ!失礼ね!私の存在がその証拠じゃない。こうやってしゃべる妖精が他にいる?」


「まあ、いい。でっ、なんで?ここにその妖精王とやらが来るんだ?」




 よしっ!掛かったわね!


 その質問を待ってたわ。




「……ふう、騒ぎになるから、他の人に黙っていてくれることは出来る?」




 私は、凄い勿体付けるように話した。




「……おう約束しよう」




 嘘ね……しらじらしい。


 まるで、信用できない回答だった。はったり言っている私が言える筋合いじゃないけど。




「実はね、この街に大魔王の軍勢が攻めてくるのよ……」


「……は?」




 目の前の巨人は再度呆気に取られているようだった。私はそれに構わず続けた。いかにも焦っている風を装って。




「妖精王様は魔王の軍勢からこの街を守ろうとしている。でも、敵は圧倒的な軍勢。この街を守り切れるか分からない……」


「だから、2人だけでも早く逃げて!私は一刻も早く妖精王様をお迎えしなきゃならない!!」




 うーん、我ながらなかなかの演技……

 しかし、ちょっと突拍子もなかったかな?でも、大魔王と言うワードは無視できないはず。特に小心者のこの2人ならちょっと疑ったとしても、とりあえず命を優先して逃げようとするはず。だから、ほら……早く逃げなさいよ……


 そう期待して私は待っていたのだけど……




「くくくっ……」




 んっ?笑っている?




「……ふふふ、……ははははは」




 ……なに笑っているのよ?


 魔王よ?まおう、大魔王。怖くないの?この世界って確か大魔王に侵略されているんじゃなかったっけ?




「ははは……はぁ、よりによって大魔王かよ!えっ妖精さんよ。おまえ、嘘が下手だな!」




 えっ?何?なにかおかしかったの?




「今日日子供でもそんな童話は信じないぞ?子供だましにもほどがあるわ!」




 あれ?なんでよ!?


 だが、今はそれを考えるより、奴にはったりを信じさせないと……




「嘘じゃないわよ!!信じて!!もう近くに迫ってきているのよ!すぐに逃げないと手遅れになる!」




 私は必死になって危機をアピールした。


 しかし……




「おまえ、バカじゃねえのか?魔王軍とか誰がそんな与太話信じるよ!!つくならもっとマシな嘘つけや!」




 相手もかなりヒートアップしていた。まともに取り合ってもらえない。そして、お互い大声で叫ぶ形になってしまったせいか、いつの間にか周囲の関心を呼んでいた。もっとも私は噴水の陰に隠れてしまっていたので、周りから姿は見えてなかったと思う。

 

 騒ぎを聞いて、周りの人が寄ってきていた。




「どうかしましたか?」




 初老に入ったプリーストらしき人が近くまで寄ってきて話しかけてきた。


 助かった……、この2人より信用できそうだ……


 私はこの状況から脱却できると思い安堵した。




 しかし、そう思った次の瞬間……



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