第9話 誘拐




 突然私の目の前に巨大な手のひらが襲ってきた!!


 余りにもいきなりな急襲だった!




 だめ……!避けられない……!




 手のひらは、避けようとする私を無造作に掴み強引に私を攫っていった。それは余りにも暴力的な力の強さだった。一歩間違えたら私なんて身体ごと潰されてしまうだろう。




 い……痛い……いたい……苦しい…………


 ……死ぬわよこれ……




 私は天高く持ち上げれられ、よく分からない状態のまま、どこかの暗闇の中に押し込まれた!せめてもの救いが足から押し込まれたことだ。頭から押し込まれていたら、着地の衝撃で首の骨を折っていたかもしれない。

 それくらい、加減なんて考えずに暴力的に押し込まれた。周りは何かの布地のようだが……




 くっ……どこ……ここ?


 頭がふらふらする……


 凄い埃っぽい……




 そう思った次の瞬間、私は急速に上昇するGを感じた。それはまるでエレベータに乗っている感覚だった。




「これは司祭様。いえ、ちょっと探し物をしてただけです」


「おや、そうでしたか……」




 外から話し声が聞こえてくる……さっきの兄貴と呼ばれた男の声と初老の司祭の声だ。そして間違いなく、その兄貴が私を攫った人物……

 

 そうなると、今いる場所は奴の上着のポケットか……


 私はなんとかここから出ようと思ったが、奴の手のひらに押さえつけられていた。

とても動ける状態じゃない。。。


 やってくれるじゃない……あいつ……!




「すみません。お騒がせいたしました。」


「いえいえ、それならいいんです。それでは……」




 司祭の声は遠ざかっていった。


 ああ……


 私の希望が……




「おい、兄貴その子どうすんだよ……」


「こいつは家に連れて帰る」




 なにが連れて帰るよ!誘拐もいいところじゃない!!もし、私の自由が利くなら、すぐに警察に突き出してやるところよ!


 この世界に警察というものがあるか分からないけどさ……




「……とりあえず、ここは衆目を浴びているからまずい……ずらかるぞ……」


「あ、……うん」




 そういって二人は足早に歩き出した。私は相変わらず奴のポケットの上から押さえつけられたままだ。逃がすつもりはないらしい。


 もう、あったまきちゃう!人が抵抗できないことを良いことにそんなことする!?普通?いきなりこんな実力行使で来るとは思わなかったわよ!


 どうやら、ここの人たちの倫理観について少し考えたほうが良さそうね……まあ、この二人がとりわけ頭おかしんだろうとは思うけど……




 すたすたすた……




 2人が街の中を歩いていく足音がする。




 はぁ……さて、どうするか……


 なんとかここから脱出したいんだけど、こうも上から押さえつけられちゃどうしようもないわね……

 

 力で叶うはずもないし……




 私は、仕方なく大人しくしていることにした。







 あれから1時間は経っただろうか?私は相変わらず押さえつけられたままだ。いい加減暑苦しくてかなわない。しかも、暗闇の中埃っぽくて最悪だった。外界の視覚情報は全くと言っていいほど入ってこない。


 ただ、そんな中でも街の生活音や声は聴こえてくる。馬車が横切っていく音、ハンマーでなにかを叩いている音、機械の駆動音、露店のお店が商売をしている声、通行人が雑談している声など、様々な音が聴こえてきた。


 かなり繁栄した街のようね……今歩いているのはどこかの商店街なのかな?


 人々にはとても活気があった。とても大魔王に侵攻されている世界だとは思えないわ……

 そういえばさっきも疑問に思っていたんだけど、今私を押さえつけている男は”大魔王”というワードにまるで反応しなかった。大魔王の軍勢が攻めてきている世界だったら、多少なりとも反応するもんだろう。ところが、実際はそんなもんおとぎ話か空想の世界の話みたいな扱いで、まるっきり相手にされなかった……


 どういうことよこれ……私、またあの”自称”神に騙された……?

 

 大魔王なんて実は存在しなかったとか……?


  …………


 考えても答えは出なかった。そういえばあのバカの名前聞くの忘れてたわ……




 そう、考えていた矢先、外の世界に変化があった。先ほどと同じく、上昇するGを私は感じた。




 カンカンカン・・・




 足音から察するにどうやら階段を昇っているようだ。奴らの自宅に着いたのだろうか?「ギィ」という扉が開く音がしたと思ったら、二人の男が中に入り扉を閉めたようだ。そして、着いたと思ったらすぐに巨人の兄が弟に向かって言葉を発した。




「おい、鳥かごあっただろ、持ってこい」


「わかった」




 鳥かご……


 もしかしたら、インコのピーコちゃんでも愛でる趣味とかあるのかしら?そんな妄想を一瞬抱いたが、もちろん違うのは分かっている……




「持ってきたよ」


「よし!テーブルの上に置け」




 兄の巨人がそういうや否や、私を押さえつける力がふっと消える。そして、ポケットの中に再度手のひらが侵入し、私の身体を締め付けた。私はそのままなすがまま運び去られる。直ぐに締め付ける力からは解放されたが私は地面に投げ出された。


 ・・いたいっ!


 なんとか受け身は取れたが、痛いことには変わりはない。




 ガシャン!




 なにかの扉が閉まった音がした。急いで、起き上がるとあの二人の巨人が私を見ていた。


 籠の外から・・・


 そして、兄の巨人が私に話しかけてきた。




「よお、調子はどうだ?妖精さんよ?」



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