第3話 ”自称”神との対話




「よく来たな」




 中から重々しい声が聞こえてきた。誰かいる。門の中は神殿の外の風景とは一転して光に満ち溢れた空間だった。その中に玉座に腰を掛けている人がいた。




 えっらそおおぉぉぉーーーーー!!




 それがその人に抱いた私の第1印象だった。その男の人は薄水色のガウンを着て、紋様が付いた赤いマントを羽織い、額には宝石が散りばめられた王冠を付けている。そして周りには天女の羽衣の様なものがフワフワ浮いていた。なんだろ……あれ。足を組み、肘掛に手を付いたままその男の人が答える。




「偉いんだよ。私は」




 心を読まれた……!?まさかね……

 だが、そう思っていたとしても火が付いた思考は止まることはない。年はよくわからない。若いようにも見えるし、老けているようにも見える。背丈は私とそんなに変わらない。顔は悪くないけど、私の好みじゃない。なにより偉そうにしているのはダメ。なに、そのひらひらしている羽衣は。オシャレのつもりなのかしら?

 そう思った瞬間……




「おい!おまえ失礼だぞ」




 間髪入れずその男の人が答えた。激しい口調ではなかったが、ちょっと怒ったぽい。やっぱり心を読んでいるようだ。明らかに人間業じゃない。時間にして部屋に入って10秒も経ってなかったが、既にお互いの認識はある程度済んでしまったようだ。


 そして、私はこの部屋に入って初めて言葉を発した。




「ごめんなさい。あなたが私を呼んでいた人?」


「そうだ。お前が遠坂玲奈だな?私を初めて見たというのに物怖じしないとは大した度胸だな」


「変なこと思ったのは謝るわ。でもこれは不可抗力だと思うんで許して」


「構わん。人間のお前では仕方ない。所詮は有限の命の被造物種だ」




 なんか凄いバカにされていることだけは分かったが、私はそれに構わず尋ねた。




「あなたは誰?明らかに人間じゃないと思うけど」


「ふっ……おおよそ見当は付いているんだろう?神だよ。神。神様。GOD。つまりとってもえらい」


「ふーん。で、私はどうすれば帰れるの?」


「おい、お前ここはもっと驚くところだぞ!」




 今の回答で分かった。間違いなくこれは夢だ。私は宗教や神なんてあまり信じてない。せいぜい行事でやる程度だ。そして、この非現実的な世界と不可思議な現象の連続から考えると、夢以外の何物でもなかった。

 まともに対応するのが馬鹿らしい。私は、はぁと一息ついた。




「いえ、なんか拍子抜けしちゃって。妙にリアルな感覚だったから分からなかったけど。種が分かればなんてことないわね」




 だが、男からの回答は予想だにしないものだった。




「夢ではないぞ。現実でもないがな。ここは死んだ人間が来るところだ。」


「はい?」


「私は位階はそこまで高くはないがね。だが、お前たち人間からすれば天の上の存在であることに変わりはない。もっと敬いたまえ」


「ちょっ……ちょっと待って」




 自己アピールに必死な自称神の話をさえぎって話をつづけた。




「死後の世界ってどういう事?」




 一瞬不思議そうな顔して男が答える。




「どういう事もなにもここは文字通り死者の世界だ。」


「え……何言っているのよ。そんなわけないでしょ?」


「変なことを言っているのはお前の方だ。それを知っているからここに来たんだろう?」


「いやいや!なんでそんなところに私いるわけ!?私普通に女子高生してて、何事もなく生活してたはずなのに……今日だって部活の子たちと遊ぼうとしてて……」


「……ああ、そういうことか」




 男は得心がいったような顔してうなずいた。




「お前はどうやらイレギュラーなパターンで死んだようだな。」


「……イレギュラーなパターン?……死んだ?」




 私は、恐るおそる聞いてみた。




「今日の死者の面会リストの情報によると遠坂玲奈は与えられた寿命を全うせず、”突然死”したと書いてある。」




 男が突然虚空から書類を出して、それをぺらぺらとめくりながら話し始めた。




「突然死の原因は急性アルコール中毒のようだな、そしてそのまま昇天した。」


「は?」




 私は余りにも唖然としてそれ以上声が出なかった。


 突然死?急性アルコール中毒?なに言ってんのこの人?私はお酒なんて飲まないんだけど!?


 男はこちらに構うことなく書類をめくっている。




「……ふーむ。なるほどな。死神のレポートによると少しはお前にも同情の余地があるな。」




 男はあれこれ言いながらレポートをめくり続けている。私に関するなにかがそこに書いてあるようだった。しばらく待っていたが、埒が明かなかったので男がレポートをめくるのをさえぎって尋ねた。




「ちょっと良い?状況がまったく分かってないんだけど、つまりどういう事?」


「せっかちな女だな……お前は。まだ全部お前の経歴を見終わってないぞ」


「私が死んだってとこだけでいいのよ。まだその話信じられないんだけど。私はお酒なんて飲まないし」


「……まあ、いい。大体見終わった所だから、これ以上の確認は必要ないか……」




 そういうと男はレポートからこちらに目線を移して話し始めた。




「お前の死のきっかけはお前個人の意思でそうなった訳ではないようだ。」


「記録によると、部活仲間と共に宴会場に入ったあと、歓談をしていた際、部活の男達数人に無理やり酒を勧められたとある」


「男達はどうやらお前に気が合ったようだな。お前を酔わせてあんなことや、こんなことをしようとしてたようだぞ」




 言い方がおじさん臭いなこの神……だがそれより気になったのは部活仲間の男子の事だった。




「男子が私を?そんなわけないでしょう。そんな目で見られたことなんて一度もないのに(女性以外には)」


「なんだ?死神でさえ色恋の事に気付いているのに、当事者のお前が気づいていないとは笑えるな。男達は全員お前に首ったけだったようだぞ」


「お前を心底性の対象として見てて、誰がお前を自分のものにするかで争っていたようだ」




 え……?まったくあずかり知れない話でついていけないんですが……




「お前のそのモデルのように長い手脚や、キュッとくびれたウェスト、適度な大きさを持ったバストは毎日男達から欲望の眼差しを受けていた」


「私にはそうは思えんが、学校でもお前は美人で名が通っていたらしい。人間の文化はよくわからんな……」




 ええええええええぇぇぇぇぇ!??そんな話聞いてないよぉぉ!?




 その話を聞いて再度私は驚愕した。自分でもスタイルは良いと思っているし、顔も悪くないと思っていたがまさかそんな事になっていたとは……。ノーマルな恋愛には程遠いと思っていたから余計に驚いた。


 ていうかそれなら普通に声かけてきなさいよ!?何が「踏み潰してください」よ!分かるわけないじゃない!!


 男はこちらの思惑を知ってか知らずかそのまま続けてきた。




「男達は、お前がまさか死ぬとは思わなかったようだ。」


「お前に無理やり酒を勧めはしたが、ある程度の所で止めようとはしたらしい。あくまでほろ酔い気分までのつもりだったようだ。」




 まあ、そりゃそうでしょうね……好意を持っている相手をアルコール中毒死なんてさせるつもりはないでしょうよ……




 だが、その次の台詞にまた私は驚いた。




「ところが、おまえが勝手に一気飲みを始めたので、男達はむしろそれを止めようとした」




 What? イマナンテイイマシタ?




「お前が暴走を始めたので、男達が取り押さえようとしたが、暴れて手が付けられなかったらしい」


「完全に酒乱だな……貴様。男達の方も殴られたり、蹴られたりして暴行を受けている。なぜか喜んでいたようだが」




 男が少しあきれた顔でこちらを見てきたが、私はそれに応じる余裕がなかった。


 え?だってお酒なんて飲んだことないんだよ?なんで一気飲みなんて始めちゃってんの私!?




「そして、そのまま意識を失い。昇天した……とレポートは締めくくっている」




 男は書類を見終わったらしく、既に片付けていた。私はなんとか、一気飲みをしたというその時の記憶を思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。記憶を忘れるというのは本当だったのか……今となっては分からないが。

 ていうか死に方めっちゃ恥ずかしい。。。なんでよりによってアルコール中毒死!?普通に、恋愛して、普通に結婚して、おばあちゃんになって家族に見守られながらぽっくりとベッドの上で死ぬことが私の目標だったのに……


 どこで狂っちゃったのよ……私の人生プラン!?


 私は頭を抱えながら呻いていたが、男はそれに構うことなく次の言葉を言った。




「さて、本題に入ろう。私もこう見えて忙しい身でね。次の死者がそろそろ訪ねてくるから、さっさとお前を処理したいのだ。」




 男が仕事モードに入った。


 こっちはもうちょっと時間欲しいんですけど!?


 ていうかさっさと処理って……




「最期は自業自得とは言え、きっかけはお前の意思ではなかった。だから情状酌量の余地はある」


「お前にはこのリストの中の選択肢が与えられる。感謝することだ」




 そういうと男はまた虚空から書類を取り出し私にそれを手渡した。




「この中から次の転生先を選べ。さっさとな」




 なんか、投げやりすぎない!?

 こっちは死んだと自覚してまだ間がないというのに、さっさと転生先を選べって……もうちょっと話すことはないのかな?


 「死んで大変だったな~」とか、「ご愁傷様、次は頑張れよ」とか、そういう労いの言葉もないの!?一応18年と言う短い人生ではあったけど、これでも必死になって生きてきたんですけど。凄い事務的な手続きしかしてなくて、いかにもお役所みたいな感じで好しいとは思えなかった。たぶん仕事も適当なんだろう。位階が低いのもきっとそのせいだ。


 ぴくっと男の眉間が動いた気がしたが、たぶん気のせいだろう。というかこちらとはもうあまり関わりたくない雰囲気を出している。さっさとこの仕事を終わらせて次にいきたいというのが奴の本音だろう。




 …………




 はぁ……と私はため息をついた。なけなしの怒りはそれで抑えられたが、失望感は拭えなかった。しかし、ここで愚痴ってても仕方がないのは確かだ。死んでしまったのはどうやら本当のようなのだから、いずれにしても転生しないといけない。このままここに居てもしょうがないし、やる事もない。


 とりあえず私は受け取ったリストを見てみた。リストには次の転生先と転生の条件が書かれていた。さらにクリア報酬ならぬ大往生した際の報酬があるらしい。


 なんかゲームっぽい?




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