第2話 見知らぬ神殿
「…………さかれいな」
「………うさかれいな」
「……とうさかれいな」
誰?
どこからか私を呼ぶ声がする。
私は自分自身の瞼が閉じられていることに気付いてゆっくりとそれを開いた。
そこはアタリが地平線の見えない真っ暗な空間だった。
「え……ここどこ?」
いきなり見知らぬ場所に放り出されていた。状況が全くつかめてなくて混乱している。そして、どうやら私は立っているらしい。直前まで意識を失っていたはずなのに何で立っているのかすら分からない。意識を失う前の記憶を思い起こそうとしても何故か思い出せなかった。
今日は学校で陸上部の懇親会があったはずなのだ。季節はもう冬で3年生はとっくに引退している時期だった。久しぶりの部活仲間との交流が出来るとあって、楽しみに家を出たのは覚えている。
しかし、そっから先が思い出せなかった。なぜか思い出すのが怖かった。思い出すことはやめて辺りを見回してみた。暗いというのに、辺りがとてつもなく広大な空間であることが直感的に分かる。よく見ると、遠くのある空間だけ光に満ちた場所があった。
誰に言われるまでもなく私はそちらに向かって歩いて行った。近づいていくと徐々に光を発するのものの輪郭が明らかになっていった。
「……神殿?」
輪郭を表したものは、いくつもの巨大な石の柱だ。石の柱は巨大な構造物を取り囲むように配置され、巨大な天井を支えている。柱や天井には豪華絢爛な装飾が施され、見るものすべてを圧倒する壮麗な雰囲気を醸し出していた。それはまるでギリシャのパルテノン神殿を思い起こすものだ。芸術に興味がない私でもこの威容には溜息しか出なかった。
「はあ……これ売ったら全部でいくらくらいになるのかしら……」
生活に困ってる訳ではないが、こういうものを見るとすぐにお金に換算して見てしまうのが庶民の悲しい性だった。
「とにかくこの先にいかなくちゃ……」
私は誰かに導かれるように神殿の奥に入っていった。ここはどこなのか?なぜ、こんな所にいるのか?私はどうなってしまったのか?考えるべきことは山ほどあったが、今はこの直感に従って進んでいった。
神殿の回廊は延々と続いていて終わりが全く見えなかった。かれこれ1時間は歩いただろうか?陸上部で鍛えている私には1時間歩くことなんてのは造作もないことだが、終わりが見えない中での徒歩は精神的に疲れてきた。
不思議なことに天井や周囲の壁からは眩しいくらいに光が発せられているのに、前方を見ると暗闇が広がっている。中に入る前に入り口側から神殿全体の大きさを見たはずだが、これだけ大きい建物だとは到底思えなかった。明らかに、外で見た神殿の大きさと中に入って実際に歩いて計測した距離とでは差があった。
「どんだけ長いのよこの廊下は……」
さらにどれくらい時間がたっただろうか……?自分の体感時間でどれだけ歩いたのか分からなくなった頃。目の前に突然巨大な門が現れた。
「え……」
私は急に出現した門に対して驚きを隠せなかったが、門はそれに構うことなく「ギギギ……」という音とともにゆっくりと開き始めた。暗闇だった場所に門から光が流れ込んでくる。私を導いていたものは、この中にいると本能的に確信した。
私は光に包まれながら門の中に入っていった。
「よく来たな」
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