第11話 魔力生成

「うがぁっ」



 後ろに倒れそうになる有砂。



 その顔を踏み台に、丸いカタマリがジャンプ。



 その反動が、有砂の後ろ向きの負荷に追い討ち。



 後ろの棚に頭がぶつかり、ガツンと鈍い音。



 5人が口を開け、顔ごと動かし目でカタマリを追う。



 ちょこん、と効果音でもつきそうに、可愛い着地。








 …やはり、カタマリはクラゲだった。





「いってぇなーおい!」


 頭を抑え有砂が怒鳴る。


 だが所詮相手はクラゲ。




「…てっめえぇ!かわいい顔して首をかしげればどうにでもなるとでも思ってんのか!?」


 それには同意です、先輩。



「あー!ほんとにクラゲだあ!」


 部長さんが駆け寄り抱き上げる。


「わあ、可愛いじゃん!プニップニ!」

「あ、わ、私にも触らせて下さい!」

「あ、僕も!」

「俺も!」

「…お前ら全員そいつに顔面タックルされてからものを言え」

「ほんとに同意です、先輩」


 あれは経験者にしか分からない。

 というか、それよりも。


「あの…それより、魔法はどうなったんですか?」

「え?なに?」

 クラゲを頭に乗せて遊んでいる部長さんが振り返る。

「え?じゃないですよ!担当がどうとか、私の苗字がどうとか!」

 部長さん本題忘れてないか!?

「ああ、わかったわかった、ちゃんと説明しますから!はいはーい、一年生のみなさんはここ座ってー」


 横長い机の端の席に三人並んで座る。

 それに向かい合う形で、クラゲを頭に乗せたままの部長さんも座る。


「ではでは、魔力というものから説明いたしましょう!」

 また先程のホワイトボードを取り出し、言葉や図を書きながら説明を始める。


「まず根本として、科学大躍進のことは覚えているよね?」

「それは、まあ」

「その際、主に科学者たちが研究していたのが、石油等限りあるエネルギー源の代わりとなる新エネルギーの発見と、AI技術の発達」

「確かにAIはだいぶ発達しましたが、新しいエネルギーが発見されたかといえば、石炭と同種の鉱物が大量発見されたくらいで…」

「見つけられてたんだよ、新しいエネルギー源が」


 横から土御門先輩が口をはさむ。

 …いつになったらそのアメは舐め終わるんだろう。


「それが、自然属性エネルギー。正式名称とかがないから、分かりやすい仮の名称だけど」

「は?属性?」

「魔法とかでよく出てくるものを考えてくれればいいよー。水とか木とか」

「おお!じゃあ、闇とか影とかあります!?」


 なぜ小枝ちゃんはそっち方向に考えるの…


「いや、それがね、属性エネルギーって九つしか存在しなかったのよ」

「え、まじすか」

「そう、そのうち人間が使えるものが、日、月、火、水、木、金、土、の七つだったの」


 あ、一週間。


「…何でそうも都合よく曜日なのよ」

「都合よくっていうか、ほら、曜日名って、太陽系の惑星とかの名前に似てるじゃない? 属性エネルギーは、それぞれの惑星が発する特殊エネルギー線が大気圏内に入って科学反応を起こし、いわゆる…」

「突然変異を起こしたものです」

「…はあ」

「で、そのエネルギーの存在を見つけたのはいいのですが、それを力に変換する方法がまた大変だったんです。ひとつ。そのエネルギーは、人間を媒介として初めて力に変換される。ふたつ。その媒介となれる人間は、ごく限られた人間である」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 机に手をつきガタンと立ち上がる。


「媒介って…媒介になった人間は犠牲になったりしないわよね!?」

「大丈夫、媒介って言っても、特殊器具を体のどこかに触れさせるだけでいいの。そうすれば器具が勝手に、人間の特定の細胞組織を通してエネルギーを回収し、力として蓄えてくれる。それが魔力。例えば、これ」


 部長さんが、さっき外していたあのイヤリングを見せる。


「私のはイヤリングの形にしてあるから、ただこれを耳につけていればいいだけ」

「僕は腕時計」

「で、あたしのはヘアゴムだ」

「おおー、便利ですねぇ!」


 小枝ちゃんが目を輝かせて言う。

 こういうのが好きなのか…ま、あれだけ色々とグッズ集めてるくらいだから…


「そうやって”魔力”を生成するんです」

「あと、ちなみにこれ、私はイヤリングが楽だからそうしてるけど、好きに他の形に変えられるんだー!」

「変えるって…どこをどうやって?」

「ただイメージすればいいの」

「…は?」

「だーかーらー! もう! りっくん電気消して!」

「え? あ、はい!」


 金田先輩が部屋の電気のスイッチを押し、周りが暗闇に覆われる。


「うわあっ!」

「…なにも、消す必要はなくね?」

「雰囲気だよ雰囲気!」


 なにせ窓がないから、日差しも入らない。

 唯一の光は、ドアの下のほんの少しの隙間から漏れ入るものくらいだ。

 完全に真っ暗ではないから、すぐに目が慣れてきた。

 それでも、誰がどのあたりにいるのかくらいしか分からない。


 パラッと紙をめくる音がして、そちらに目をむけ、ぎょっとした。

 会話に登場しなさすぎて存在を忘れかけていた入火先輩が、最初と同じ姿勢で本を読み続けている。

 …この暗さでライトもなしに普通に本が読めているのなら、もはや異常だ。


 そう思って目を動かせずにいると、ふいにページをめくる途中の先輩の手が止まった。先程まで、何があろうと本を読み続けていた先輩が、突然硬直したのだ。

 えっ、と言いそうになるのをこらえ、慌てて視線を逸らす。

 先輩の方からの視線は全く感じないのに、なぜか今そちらを向いたら、目が合ってしまう気がしてならない。

 …見なかったことにしよう。



 ふう、と息をはいて部長さんが立ち上がり、イヤリングを手に乗せたまま、静かに目を閉じる。


「集中、集中……」


 次の瞬間、彼女の髪や制服が、風に吹かれたように少しばかり浮く。



 ……上昇気流!?



 他の先輩たちが、扇風機か何かで風を起こしてい…るわけでもない。見た感じでは。

 そして、私の方にはほとんど風が来ていない。

 一体どこから風が…



「…え?」


 イヤリングが…光っている。

 青白く。幻想的に。

 彼女の顔を下から美しく照らし出す。

 …発光式の、凝ったイヤリング…というわけでもなさそうだ。


「……あ、あれ?」

 なんだか頭が…フラフラする。

 なん…だろ……視界が、曇って……




 イヤリングを中心に揺らめきながら、光がどんどん白っぽくなり、広がっていく――











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