第10話 小動物に会わなかった?
「…はい?」
…今この人は、なんと言った?
魔法?この世界を救う?
いやいや。
中二病も大概にし…
「え!魔法ですか!?」
「世界を救うって、なんかかっこいいな!」
あんたら正気か!?
「おお、二人とも、飲み込みがはやくて助かるよ!
まあ正確には、こっちの世界を守る、だけど」
「ちょっと待ってよ、何言ってるの、魔法なんてあるわけないでしょ!?」
「いやあ、それが実はあるんだよー」
そう言って彼女が、耳につけていたイヤリングを外し、手のひらにのせて見せた。
「これが…」
「ちょっと待った!」
彼女が何か言いかけたところで、ボロボロの茶髪の男子がそれを制止する。
髪は、やはり例の彼女のようにボサボサになって…
あれ?
彼の髪はもちろん、ご愁傷さまとしか言えぬ有様になっている。
が、気づけば既に彼女の髪は、きれいに整えられていた。
え? い、いつの間に!?
女子力って怖い…
「なあに?りっくん」
「その呼び方はやめて下さい!
って、いやそうじゃなくて、その、いきなり魔法の話から入るのはハードル高すぎじゃないですか?」
「えー、そう?見せるのが一番早いと思うけど」
「そこの子は信じそうにないけどな」
棒つきキャンディーをくわえたポニーテールの人が、足を組んで椅子に腰掛けながらそう言い、ちらりとこちらに視線を向ける。
ああ、私のことか。
「手品だろって言われるのがオチだ」
「うーん、そっかあー?」
「ですからここは科学的にきちんと説明をして…」
「じゃあ先に自己紹介しちゃおうか!」
話が飛んだ。
「え、いや、そうじゃなくてですね…」
「じゃあじゃあ、私からねー!」
そう言ってどこからかミニホワイトボードを持ってきて、名前を書き出した。
この人は、人の話を聞かないタイプか…
書き終えた彼女がホワイトボードを胸の前にあげる。
「私は、高三E組の
へえ、部長…
部長!?
…あんな乱闘を見てしまった後だからか、とても部長には見えない。
「じゃあ次、りっくん!」
「え? いや、あの…」
対応に困りながらも、仕方なくホワイトボードを受け取り書き込む。
「僕は、高三C組の
金田先輩…は、そう言ってすぐに赤らめた顔を伏せ、ポニーテールの人にボードを押し付けた。
照れ屋…なのかな。
押し付けられた彼女は、面倒そうに乱れた字で名前を書き込む。
「あたしは、高二D組の
土御門先輩か…凄そうな名前のわりに、ヤンキーっぽい。
一匹狼という感じだ。
やはりキャンディーをくわえたまま、「ん。」と一言だけ言って、最後の一人にボードを渡す。
その人が本を片手に、目線は本に向けたままボードに文字を書く。
態度は悪いが、まあ、器用そうではある。
彼は本を読みながら、ボードをこちらにに突き出した。
新入生三人でそれを覗き込む。
『入火燈夜(いりひとうや)
高二D組』
「……それだけ?」
つい言葉が漏れた。
あまりにも塩対応だ。
「彼、いつもあんな感じなの。悪気があるわけじゃないから、とりあえず放っておいてあげてね」
「トーヤには構わない方がいい。特にヘッドホン。外したら殺されるからな」
「こ、殺される…ですか!?」
「ああ、マジな話な」
そこまで言われるとは…
彼にはあまり関わらないべきということか。
「さてと。次は君たちだね!
はい、どうぞー」
そう言って部長さんはボードをこちらに差し出すと、興味深々といった顔でニヤニヤする。
何がそんなに楽しみなのか…
「あ、じゃあ俺からいくか」
日比谷が代表でボードを受け取る。
一人づつだんだん回されていくボードを見ていると、なにかの儀式でもしているかのような気分になってくる。
というか、部活に入るなんて一言も言っていないのに、なんでこんなところにいるのだろう…
「俺は、一年A組の
よろしくお願いします!」
「ふぅん。日比谷くん、か…」
部長さんがボードを見て、神妙な顔でつぶやく。
そこまで珍しい苗字でもないだろうに。
「ええっと、次は私ですね」
ボードが小枝ちゃんに回る。
「私は、一年A組、木下小枝です。
ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「木下ね…」
また部長さんがつぶやく。
新部員の名前を覚えようとしているだけなのかもしれない。
いや、だからまだ入ると決まったわけじゃないし全然!!
「…じゃあ最後、私ですね」
ボードに名前を書いて、皆に見えるように表に向ける。
「私は、一年A組、天宮月華です。
えっと、よろ…」
と、途中まで言いかけたとき。
ガタッと大きな音をたてて、突然部長さんが椅子から立ち上がった。
横では、金田先輩が目を丸くしている。
さっきまで無関心だった土御門先輩も、眉をよせている。
「え、えっと……私、なんか変なこと言いました…?」
「天宮…さん…」
あ、ああ、苗字のせいか。
父が率いて科学実験とかしていた天宮グループ、そんなに有名だったのかな…
そう思ったのだが、先輩たちの硬直の原因は、もっと予想外のことだった。
「天宮…。天宮、月華。
……どういうこと?」
いきなり部長さんは、バッと部屋の端の棚に駆け寄ると、奥の方から一冊の分厚いノートを取り出した。
パラパラとめくって、何かを確認している。
そして、どこかのページでピタリと手を止めた。
「やっぱり…前例がない」
「そうですよね…どうしましょうか」
「どうもこうも、単に使えないってだけの話じゃね」
「そもそも、あの子で合っているんでしょうか、月、の担当」
「あ…そうだ、まだ確認してなかった」
「え、えっと…何の話をしてるんですか」
前例?
担当?
話についていけない。
「あ、ごめんね、こっちの話。
それで、つかぬことをお伺いしますが…」
少し気まずい顔で部長さんがこちらを向く。
「あの……
今日、小動物か何かに会いませんでした?」
…え?
「なんで、クラゲのことを…」
「あ、やっぱり会ってた!
この子で合ってるはずだよ!たぶん!」
「そうだね…苗字は合わないけど…
というか、今度はクラゲなのか」
「え、クラゲ!?ちょっと見せてみろよ!」
…どういうこと?
なんでクラゲに会ったことを知っているの?
でも、会ったのがクラゲとは知らなかったみたいだし。
「と・り・あ・え・ず、クラゲ見ーせて!」
「え、いっ嫌です!」
そう言った時、クラゲをつっこんであるスクールバックを後ろによけたのが失敗だった。
しまった、と思った時には、もう遅かった。
「お?
そこにいるのかぁ?」
「あ、きっきゃあ!」
レナが月華のスクールバッグを肩からひったくり、上にかかげる。
「失礼しまーす」
「あ、ちょっと勝手にかばん開けないで下さい!」
月華が背伸びしてピョンピョン跳ねながら手を伸ばすが、レナが華麗なステップでよけてしまい届かない。
「はい、アリスちゃんパス!」
「へいよ。あとそのあだ名やめろ」
かばんが綺麗な弧を描いて土御門有砂のもとへ飛んでいく。
受け取った有砂が、かばんのチャックを開ける。
瞬間、何かが有砂の顔に激突。
「うがぁっ」
……あ、デジャヴだ、これ。
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