第9話 カオスすぎる部室訪問

 結局、女子たちが日比谷を盾にしながら倉庫に向かう。


「あの、今更ですけど…あんまり使えなくないですか?この盾。

 すっごく頼りないですし」

「…そういえばそうね。あんまり使えないわ、この盾」

「お前らちょっと黙ってろ!」

「嫌よ」

「嫌ですよ」

「人をこき使っておいてそれはないだろ…

お前ら、俺がいなかったら怖くて来れなかったくせに。さっきだってあんなに悲鳴あげて怖がってさ。

口はよく回るわりに、案外軟弱者なんだな。」


 日比谷がフンと鼻で笑う。

 そういうあなたも、案外口が回るのね。という言葉を飲み込む月華。が。



「……黙れよクズが」

 小さくボソッとつぶやく声。

「え…小枝ちゃん?」

 小枝を見ながら月華が絶句。

「はい?あ、着いたみたいですよ?」

 ニコッと笑いながら言う小枝。


 小枝の目が…笑っていない…


「お、そうそう、これだよ、俺が見た貼り紙」

 後ろの静かな冷気に気づかぬまま、ドアに貼られている紙を指差す。

「…あ、ああホントだ。セブンデイズ部…」


 部室…なのか?どう見ても見た目倉庫だけど。

 セブンデイズ…七日間?

 七日間って、一週間か。


「なんの部活なんでしょうか」

「さあ…」


 と、そのとき。



 ガッシャーン、ガンッ、ゴツン、ガコン、と、

 中から激しい物音が。



「ひゃっ!なに!?」

「これが噂の、ポルターガイストってやつですか!?」

「ん?なんか声も聞こえっけど」

「怨念の…声…?」

「いや、ちげーだろ」


 

続いて、ギャー、うわあぁ!、ヒャアッ、

うぉおりゃあぁぁ!!、との声。


…最後のやつ、何…



「何の悲鳴よ…」

「よし、入ってみるか」

「え?入るの?今?」

 ゾッとする月華。

「そもそも鍵開いてないんじゃないですか?」

 開いていないことを心から望むといったような歪んだ顔の小枝。


「いや、普通に開いてるけど」

 日比谷が掴んだドアノブがガチャリと音をたてて回る。


「え、ちょっ、まだ心の準備が…!」

 月華はそう言って手で顔を覆い隠しながらもしっかり片目はあけて見ている。


「私も、あ、あらゆる霊を払うという魔法陣を描くための羽ペンとインクと私の家に代々伝わる呪文の書と十字架と、媒介にする日比谷さんの髪の毛5本の準備が…!」

 小枝がかばんの中をあさり大量のモノをかき出し始める。


「そんなの持ってるの!?じ、呪文の書とか…」

「私の大事なお気に入りコレクションたちですよぉー」

「あ、俺の髪の毛いつのまに!」

「あなたは隙が多すぎなのです。おかげで楽に事が進みましたよ」

「小枝ちゃんの生態がますますよくわからないわ…」




 などと言っているうちに。

 突然ドアがバンッと開いて、盛大に日比谷が吹っ飛ばされた。


「グハッ!」

「あれ、日比谷さん吹っ飛んでいっちゃいましたー」

「おお、見事に吹っ飛んだね」

 …ん?

 吹っ飛んだ?



 ばっとドアのほうへ振り返ると、れた制服を着た茶髪男子がドアの横でひっくり返っていた。髪の毛が少しはねている。乱闘にでも巻き込まれたみたいだ。



「いたたた…あ、ちょっと二人とも、もうやめてくださいってば!」


 彼はこちらには気づかずに、そう叫びながら立ち上がって中へ入っていった。

 ドアが開いたこともあり、中の轟音と叫び声がより鮮明に聞こえる。


「だぁれが勝手に食べていいって言ったのかしら?え?」

「だって早く食わなきゃエクレアに失礼じゃねーか」

「もとの主以外に食べられたエクレアの気持ち、考えたことあるの?」

「ごめん先輩、意味わかんねえ」




 顔を見合わせる月華と小枝。


「ええっと…中でなにが起きてるの…?」

「気になりますね、エクレア。私も食べたいです!」

「…それはちょっと無理じゃないかな」

「誰か、起こしてくれないか?ひとりじゃ起き上がれねえんだよぉ」


 月華と小枝が、ドアに手をかけ、恐る恐る中を覗き込むと。





 後ろから羽交い締めにされ抵抗している、棒つき飴をくわえたポニーテールの女子。


 その人にサイドテールの髪と制服をひっぱられ、バランスを崩しかけながらも羽交い締めをし続けている女子。


 二人を止めるため間に入ろうと試みては綺麗な弧を描いて吹っ飛ばされている茶髪の男子。


 その三人のすぐ隣で、ヘッドホンをしながらわき目もふらず平然と本を読み、お茶を飲んでいる黒髪の男子。





「…あ、」

「ん?」

普通ありえないようなもの凄い体勢でもみ合いをしている女子二人がこちらに気づき、その見事な体勢をキープしたまま短い声をあげる。


目が合い、動きが止まる。


黒髪の男子がパラリと本のページをめくる音が響く。




「…」

「…」


…パッタン。





言葉も交わさず、ふたり同時にドアを閉める。

後ろを風が吹き抜ける。




「ん?どした?あ、なあちょっと起こしてくれね?」


[[お前はちょっと黙ってろ!]]

空気が読めない日比谷に対し、重なるふたりの心の声。



が、気を抜いたその瞬間、ガバッっとドアが勢いよく開く。



ゴツッ。


無防備な額をドアが直撃。


「イタッ」

「ふぃあぁっ」



「え?あっ、ごめんなさい!」

額を押さえながら顔を上げると、さっきまで髪をひっぱられていたために髪がボサボサのサイドテールの人が、あわあわしながら出てきた。



「あっ!ねえ、あなたたち新入生よね!入って入って!」

「え…? あ、あのちょっと、私たちべつに、」

「いいからいいから、来ればわかるから」

「なにが!?」

「あれ、新メンバーはあと一人存在するはずなんだけど…

あ、そこの君かな?」


彼女が日比谷に駆け寄り、ひっぱり起こす。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえー」

「はあ、それくらい自分で起きなさいよ」

腕を組んで日比谷を見やる。

立ち上がった日比谷が、砂ぼこりを払いながら文句を言う。

「おまえ俺の話聞いてた?起きれないっつったのに」

「ああ、ごめん存在ごと無視してた」


「はいはーい、みんな仲良くしてねー」

彼女が笑顔で月華たちの肩をたたく。


「…えっと…さっきまで乱闘していたあなたに言われたくないんですけど…」

「ですです!あ、あと、エクレアってまだありますか!」

「それが、もうないのよー、エクレア。あの子がぜーんぶ食べちゃって」


そういう彼女が、新入生三人を後ろから軽く押しながら、部室らしきボロ倉庫へ誘導する。


「ほら、こっちこっちー」

「え、ちょっと待ってくださいってば!」


三人を中に押し入れ、彼女がガチャッとドアを閉める。

黒髪の男子以外の目線が集まる。




「と、いうわけで!」


彼女が部屋の中心へ駆け寄り、ぐるりと振り返る。



「ようこそ、セブンデイズ部へ!!」


肩の前に垂らしたサイドテールを揺らす彼女のセリフとともに、低めの天井に吊り下げられたくす玉が割れて、セリフと同じ言葉が書かれた垂れ幕が出てくる。




呆然とする三人を前に、彼女は言葉を続ける。


「で、いきなりですが、もう単刀直入に言います」


深呼吸をし、こちらに向き直った彼女が、片手を腰にあて、人差し指を前に突き出して、満面の笑みで口を開く。





「私たちと一緒に、魔法でこの世界を救ってください!!」




























……はい?
















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