第8話 メシアも呪いは解けないか?

 なんだかんだで先生からの学校説明なども無事終わり、時刻は12時半。

 普段はこれから昼休みらしいが、今日はこれで解散だ。


「あー学校終わり!楽!短いっていい!」

「そうですね…」

「…ため口でいいよ?」

「敬語は癖なので気にしないで下さい…」

そうなのか…そういう人もいるんだな。


「あ、そうだ。名前なんていうの?」

「え、えっと、木下小枝、です。小枝と書いて、さえと読むんです」

「へぇ!あ、私は天宮月華!天の宮に月の華で。よろしく、木下さん!あ、小枝ちゃんでいい?」

「あ、えっと…」

「?」

「えと、あ、あまり、人と話すのは馴れていなくて…」


 それなのに、さっきは勇気を出して席交代を申し出てくれたのか…

 メシアというよりもはや神…!


「その…わ、私、学校に知り合いとかいなくて、人見知りなので、友達とか、いなくて、その…」

「じゃあ私がここでの初友達ね!これからもよろしくね!」


 彼女に向けて笑顔で言う。

…やっとまともな青春らしい要素が出てきたか!?



「…!?あっ、よ、よろしくお願いします…!」

「うん!」


 こうして無事高校初友達をゲットした。

 あいつはカウントに入らないし。


 よく考えたら私は、幼なじみは二人いるけれど、ノーマルな友達は今までいただろうか…

…やめよう、考えない方がよさそうだ。



「どうする?そろそろ帰る?最寄りどこ?」

「あ、えっと、その前にちょっといいですか?」

「?」


 ゴソゴソとかばんの中をあさる小枝。


「ない、よねぇ…あ、あれ?あった……」


 なんとなく割り切れないといった顔をしながら、1枚のポスターらしきものを取り出す。


「えと…ここちょっと、気になるんですけど…一緒に来てくれませんか?」

「んー?」


 白い画用紙に、学校やハートや星のマークが描かれている。


「う、うわぁ……」


 色づかいや絵が幼稚園児並みすぎてもはや狂気を感じる。

 その真ん中に大きく、あまり綺麗とは言えない文字で…



「…セブンデイズ部?」



 えっ?

 名前ダサっ。




「な、何?これ」

「落ちてたんです、廊下に」

「…なんでこんなゴミっぽいものを拾ったのよ」


 角はボロボロで、全はなんとなく黒ずんでいる。

 字が妙にアンバランスだ。


「なんか、気になっちゃって…その、つい引き寄せられてしまった、というか」


 え?

 お、オカルトチックだな…


「あ、怪しいんじゃない?それ。捨てたら?」

「え?大丈夫だと思いますけど…」


 うーん、と悩ましい顔で彼女がポスターを見る。




「というか、捨てようとしたゴミ箱に限ってなぜか全部いっぱいで捨てられなかったですし」


「もとの場所に戻そうにも、どこで拾ったのか、なんか分かんなくなっちゃいましたし」


「それで一回かばんにしまったら、空いてるゴミ箱見つけたんですけど、捨てようと思ってかばんから出そうとしたら今度は見つからなくて」




 初日だしゴミ箱は全部綺麗なはずじゃないのか?

 っていやいやいや。




「それ、まずいんじゃない?呪われてたりしたらどうするの…!?」


 真面目な顔で言う月華。


「え?呪われ…!?」


 きゃっ、とポスターを机の上に投げすてる小枝。




 冷静に考えれば科学的に呪いなんてあるわけがないが、二人ともそこまで考えが至らない。




「ど、どどどうしましょう!?」


「こ、こういうのは破り捨てるのが一番だって、昔読んだことがあるわ…!」


「む、むり、無理です触れないです!」


「さっきまで触ってたじゃない!」


「あれはノーカウントです」


「なんでそうなる!?

 ほら、ここは神の力とかで、浄化ー!とか!」


「そんな力ないですよぉ」





「んー?どうした?」

 後ろから日比谷がニュッと顔を出す。


「わ、わぁ!」

 またそうやって突如後ろから。

 デジャヴだ…




「ん?なんだこれ?」

 彼がポスターに手を伸ばす。


「あ!だ、だめだめだめ待った待っ」

「駄目です待ってくださいぃ!」

「は?」


 と言いつつポスターを手に取る日比谷。




「きゃあぁあぁーー!」

「ひゃあ!!」

 悲鳴をあげる女子二人。


「え?ん?どした?」


「やめて、近寄ってこないで!」

「呪いが移ります!」


「はぁ?呪いぃ?」


「と、とりあえず、落ち着いて、手の中のものを地面に置いて、両手を頭の後ろで組んで、」

「俺は殺人鬼か何かか!?」


「光をもって鬼を沈めたまえ悪を清めたまえ」

「変な呪文となえんな!」


「!? やっぱり凄い力使えるんじゃない!」


「いえ、当てずっぽうです」


「えっそれ効果あるの!?」


「信ずるものは救われるのです…!」



バカのくせに、こうなったら女子たちはもう止まらないし永遠に続くから構ってられないということを理解した日比谷は、ギャーギャー言う彼女らをよそにポスターを観察。



「ん?セブンデイズ…?どっかで見覚えが…」

 彼がポスターを見て考え込む。


「あ!わかった!」


「え?何が?」


日比谷のことはそっちのけだった月華が身をのりだし訪ねる。


「校舎脇の変なちっこい建物で見た気がするんだよ、セブンデイズって言葉を」


「食堂とかがあるあの別棟じゃなくて?」


「そこじゃなくて。地味で汚くて人の気配なくて窓もほとんどない建物のドアで」


「…それは倉庫と何が違うんでしょうか?」


「うん、普通に倉庫だと思うわ」


「でも生徒の声聞こえたし」


「……生徒の声?」




 ……

 深刻な表情の月華。




「……それ、いつ?」


「ついさっき。ピーピーギャーギャー言ってた」


「人の気配がないのに?」


「あっ……」


 小枝が気づき、絶句。


「お、お化けでしょうか……!?」


「そうなら呪いも納得いくわね」


「いや、だから呪いじゃねえって、大袈裟な。大体お化けくらいいたとしても別にほっときゃいいだろ」


 瞬間、日比谷の左右斜め前からとてつもなく薄暗く鋭い視線が。


「日比谷…お化けや幽霊を見くびらない方がいいわよ。でないとあなたも細切れに……」


「え、やだ」


山姥やまんばが夜な夜な包丁研いで高笑いしているのかもしれないですよ……?」


「やめてくれ!あ”ーもう分かったから、とりあえずそこ行こう、な?」


「じゃああなたがおとりね!」

営業スマイルで月華がにこやかに笑いかける。


「……まじすか」





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