第7話 座席と私と救世主
「そこ…わ、私の席…なんですけど…」
「え?」
声の方を見ると、顔を少し伏せてもじもじしている少女がちらっとこちらを見、目が合った。
「あなたの席…あっ、ご、ごめんなさい!」
あわてて机から飛び退く。
人の机で何してるんだ私は。
「ほらー、後先考えないからこうなる」
「あんたにだけは言われたくないわ」
黒板の方を見ると、座席表の紙が貼られていた。
「えっと…私の席は…」
どうかこいつの隣じゃありませんように…!
「…あ、あった!」
縦に5列、横に8列ある座席で、私は後ろから2列目で一番窓側の席だ。
「えっと、俺の席は…」
ごくり、と唾を飲む。
「一列目の正面の席だ。げ、ど真ん中かよ」
っっ!!
やったぁ!!
「ふふ、天は私に味方したようね!」
「? 何のことだ?」
「さあ、何のことでしょうね」
ともかくひと安心だ。これであまり関わらずにすむ。
自分の席に座るなりまた突っ伏す。
あー、眠い。
まだ朝なのに、一日中走り回ったくらいの疲労感。
まだあんまり人来てないし、ちょっとくらい寝てもいいか…な…
ガタガタッ
振動音で目が覚めた。
「ん…?」
いつの間にか前の席にも人がいる。
その前にも。
みんな…立ってる…
!?
あわてて立ち上がる。
も、もうこんな時間ー!?
「気をつけー、礼」
前の方の誰かが気だるげに言い、一斉に礼。
ワンテンポ遅れて月華も礼をする。
朝の……ホームルーム!?
時計を見ると9時45分。
ファックスには8時45分と書いてあったし、45分なのは正しいのか。
寝てたといっても10分くらいだけだったのね。
でもその10分で生徒たちが登校してきてその間私は一人で初日から寝ていて…
危うくホームルーム中も寝続けるところで…
サーっと血の気がひく。
あ、危なかったぁーー。
全員が席に着いたのを見計らい、教卓前の女性が口をひらく。
「えっと、み、みなさん、こんにちは! 一年A組の担任を務めさせていただきます、白石めぐです! 一年間よろしくお願いします!」
笑顔で若くて可愛い感じの先生ね。
「じゃあ早速プリントをいくつか配りたいとおも…ふぁっ!?」
あとドジっぽい。
肘をぶつけてバサバサっと雪崩れを起こし崩れ落ちたプリントの山を、あわあわしながらも丁寧にかき集める。
軽く咳払いする先生。
「えっと、では気を取り直して、プリント配ります!」
頼りない先生だけど大丈夫かな…
ま、可愛いからいいか。そこ大事だし!
学校初日は面倒だな、と思いながら、点呼も終わり、なんとなく先生の話を聞いたり聞かなかったりしているうちに順調に時間は進む。
と、白石先生が黒板に何か書きかけた時、
「先生、視力悪くて黒板があまり良く見えないのですが、前の方の席と交換していただいてもいいでしょうか?」
右隣の席のメガネ男子が手を挙げて発言する。
うわぁ、いかにも勉強できそうな人だな。
こういう人は苦手…
どこかと席代わってくれるならそれはそれでありがたいかも。
「そうねえ、あ、じゃあ君!」
先生から見て真正面にいた人が指をさされる。
「へ?」
机の下の手元でなにやら鶴を折っていたその人が、すっとんきょうな声をだす。
誰よ、この時間中に鶴なんて折ってる人。
「えっとー、日比谷くん? 席、代わってあげてもらえるかしら?」
「え? あ、いいっすけど、どことですか?」
「あそこのメガネ男子くんと」
先生、そこは名前で呼んであげようよ…
先生がこちらの方(正確には私の隣のメガネ男子くん)を指さし、日比谷とかいう人もこちらの方を見る。
目が合う。
あ。
……ごめんなさいメガネ男子くん。
やっぱり席、代わらなくていいです。
むしろ代わらないでいていて下さい。
頑張って黒板見て下さい。
「あ!」
相手が目を輝かせる。
やめて。
やめよう、ね?
お願い黙ってて何も言わないでほんとお願いだからやめて見るなやめ…
「おー!さっきのクラゲの人!」
「うわあああークラゲとか言うなバカぁ!」
何考えてんのあいつっ!!
「こらぁ、バカとか言わない! ってあれ? 知り合いなの?」
「違います知り合いとかじゃないです全然」
「え?友達じゃねーの?俺ら」
「いつ誰があんたと!?」
ああ、クラスメイトたちの視線が……
「知り合い同士は同じクラスにならないようになってるはずなんだけどなあ。ま、いっか!」
よくないです先生!
「じゃあちょうどいいわね!日比谷くん、天宮さんのお隣行っていいですよ?」
だからよくないですってば先生!!
「え、ほんと!? よっしゃあ!」
いや、よっしゃあじゃなくて!!
荷物まとめ始めないでよ来る気満々じゃない!
絶対授業集中できなくなるってば!
「じゃああの、私が日比谷?と代わりますから、ね?」
「いや、それじゃあ意味ないだろう」
隣のメガネ男子がいきなり口をはさむ。
「ん"ん"━━まあそうなんだけどさあ!!」
ああ、ここまでして何であいつの隣になりたくないんだっけ、私は。
今の時点でも、もう平和な高校生活もくそったれもない。
もう、何でもいっか…
「先生、あの……」
……?
机に突っ伏した月華の耳に、誰かのか細い声がかろうじて届く。
「ん?どうした?木下さん」
先生、その人の名前は覚えてるのね…
「わ、私、その……席、代わっても、いいですよ…?」
……
……!?
「え、ほんと!?はしっこの席だけど、そこと入れ替わっても大丈夫?メガネ男子くん」
「本当に隅っこですね。まあ一列目ですし、どうにかなるでしょう」
「えー? ちぇ、俺はど真ん中のまんまかよ」
……き、
救世主キターー!
だれ、だれ!?
木下さん!?
メガネ男子が去っていき、木下さんが来る。
あれ、あの子って…
「あ、あなたさっきの!?」
私が突っ伏してた席の真の持ち主?の子!
「え?あ、はい…」
「め、
恐れ多くも
「えぇ!?えっと、その、よ、よろしくお願いしますね…?」
というわけでとりあえずは一件落着??したのであった。
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