第6話 クラゲ再び
「ハス!! やっと見つけた! 勝手にどっか行くなってあれだけ言っただろ?」
「……は?」
眉をよせて月華が言う。
彼が言っていた友達って…
こいつ!?
「……友達って…ハスって、あなたのペットだったの…」
「ペットじゃない! 友達だ!」
「……いや、友達っていうか、そもそも人間じゃないじゃない」
「関係ないだろ! 俺たちは親友だ!」
その親友に指を噛まれひっかかれたあげくに顔面にドスッとカワウソパンチをくらわされ、いってぇー、とか言いながらもそう言い張る。…ほんとに友達か? こいつら。
「ずいぶんと仲がいいのね」
皮肉を込めて言ったつもりが。
「だろ!」
頭の上にうつ伏せになっているカワウソにポコポコ叩かれながらドヤ顔で彼が言う。
ああ、もはやこの人に皮肉は通じないか。
彼の話によると、ハスとは家で一緒に暮らしているらしい。ほら、やっぱりペットじゃない。
「まあ何にしろ、お友達が見つかってよかったね」
「そうだな。あとはお前の友達だけか」
「うん…」
あ、まずい。
「その友達さがすの手伝うから。どんなやつなんだ?」
あー、やっぱりそうきますよねー。
どうしよう。言い訳がない。
でも何か言わなきゃ。
……もう、ここはいっそ正直に…!
「…小さくて、」
「うん」
「まるっこくて、」
「うん」
「半透明で、」
「うん。……うん?」
「スライムみたいで、目がゴマ粒で、猫耳生えてて」
「え、ちょ、ちょっ」
「四ツ葉のクローバーが頭にのってて手がヒレみたいな感じでしつこいヤツで」
「いや待て待て待てちょっと待て」
焦ったのか手を振って止めようとする彼。それを見てニヤニヤしながら月華が言う。
「なぁに? 事実を言ったまでだけど」
「え? ああ、うーん」
うつむいて何か考えている。
…というか何かを思い出そうとしている?
「…あのさ」
彼がスクールバッグの中をあさり始める。
そして何かを取り出す。
見覚えのある耳と四ツ葉。
「それってこいつのこと?」
彼にわしづかみにされて出てきたのは。
まぎれもなくあのクラゲだった。
「…え?」
あの説明でよく分かったな…あ、でもわりと特徴が分かりやすく説明したか…
っていやそうじゃなくて!
え!?
「何であんたが持ってんの!?」
いつの間に!?
「さっき二手に分かれて塀づたいに探してた時にさ。木にひっかかって逆さ吊りになってたから取ってみたら、なんか爆睡してるみたいだったからとりあえずバッグに突っ込んでた」
クラゲが逆さ吊りのまま半目で寝ているところを想像して笑いそうになるのをこらえる。
っていやそれより、色々と突っ込みどころ多すぎて困るんだけど!?
「なんでそのことを早く言わなかったの!?」
「え? 吊られてたこと?」
「違う!! バッグにクラゲ入れてたこと!」
「あー、わりぃ、さっき言われるまでその、クラゲ? のこと忘れてたからさ」
こんな強烈な謎生物をバッグに入れておいて忘れるか普通。
「…まあ何にせよ見つかって良かったですありがとう」
無表情棒読みでそう言うと、ちょうどクラゲが目をパチッと開いて、目が合った。
「あ、起きた?」
あたりをキョロキョロ見回すクラゲ。
彼の手からピョンと跳び降り、トコトコ走りまた私の肩に跳び乗る。
「仲いいんだな」
「全然良くない」
「え? あ、そうなの?」
「勝手についてきただけ」
「そのわりに結構探してたよな」
「それは……なんでだろ?」
「おい!」
ほんと、なんでだろうな。
と、その時、正門の方から、ギィィと軋むような音がした。
門が開いた!?
「お! 今何時だ?」
「えっと、9時半ちょうどだね」
「やっぱり9時半だったか」
あー、やっと開いた!
これで校内に入れる。
あ。
「ねえ、こいつらどうする…?」
そのまま肩に乗せていくわけにもいかないし。
「そのまま肩に乗せていけばいいんじゃね」
「は?」
正気!?
「ペット持ち込み禁止でしょ普通!
バレたらどうするの!?」
「ペットじゃないから大丈夫!」
ドヤ顔で言わないでよ!
「もう、ともかく、バッグの奥底しまって!
絶っ対に外に出さない、出させない、喋らせない!」
「え、お昼はハスとのお喋りタイムが…」
「いいから黙りなさい」
「……ちっ、わかったよ」
え? 舌打ち? 今、舌打ちした?
…この人とはなるべく関わらない方が賢明だ。
この人の動物持ち込みが見つかって私まで巻き込まれて反省文、なんて嫌だからね!
「……いや、なんでこうなるの?」
クラス分けの貼り紙の前。
「おー、お前A組? 俺もだ! 同じだな!」
…この貼り紙破り捨てるかクラゲの墨で塗りつぶすかでもしていいですか? とは言えない。近くで先生らしき人が見張っている。
そもそもクラゲは墨をはかないんだった…
「一年間よろしく!」
勘弁してよ…
「……よろしくないです」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない」
あーあ、私の平和な高校生活が…
「……とりあえず教室行こうか」
ため息混じりにそう言って一人で先に歩き出す。
「おい待てよ、置いてくなって」
つきまとわないでいただきたいです一人にさせてくださいほんとにもう。
校舎は三階建てのコの字型で、一年生の教室は一階だった。一つの階に、一学年分の教室と専科の教室があるらしい。教員室は二階で、三階は物置部屋と化している部屋がほとんどだとか。
ほとんどの部室と食堂と一部の専科教室は、正門から見て校舎のすぐ奥の別棟にあるみたいだ。
靴を履き替え一年A組へ向かう。
後ろからついてくる気配は無視。
「おーい無視すんなよー」
あーあーあー、なんにも聞こえなーい。
「…」
あ、やっと静かになったかな。
このまま今日一日くらいはおとなしくしていてくれると…
「わっ!!!」
耳元で頭に響く声。
「きゃっ! なに!?」
「おお、やっと反応した!」
残響で右耳がキーンと鳴る。
頭が痛い。
余韻がうるさい。
「ッ!! いきなりなにすんの!」
「無視するのが悪いんだろ?」
「だからって耳元で叫ばなくてもいいじゃない!」
「えー、だって」
「あのねぇ! だってじゃなく…て…」
周りの視線にはっと気づく。
既に登校してきた生徒数人がこちらを見ている。
「あ…」
赤くなる月華。
「な、なんでもないですから! ほら、早く行くよ!」
「え? お、おい!」
彼の腕を掴んでささっと廊下を通り抜ける。
まだ誰もいない教室に着くなり近くの机に突っ伏ししゃがみこむ。
「あぁーーー!!!」
見られた…大声だして言い合ってるの見られた…
見ていたのは10人もいなかった…はずだけど。
「初日から印象最悪…」
「え? 別に良くね?」
「良くない! もとはと言えば誰のせいだと…」
怒鳴りながら振り向く。
「あの…」
後ろから柔らかくか細い声。
「そこ…わ、私の席…なんですけど…」
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