第8話 弱肉強食
前回のあらすじ
キツネと再会したすぐにお父さんと再会した。しかしそのお父さんは狩人であり、キツネの命を狙っていたのだ。そしてお父さんはユイに次々と現実を語る。
「この世界のルールだ。よく覚えておけ。それは、”弱肉強食“だ」
「じゃくにくきょうしょく…?」
「そうだ。弱いものが肉になり、強いものがそれを食うと言う意味だ。これはこの世界にとって欠かせないルールなのだよ。俺たち人間が生きるためにも弱肉強食をしているのだ。つまりなにが言いたいかわかるかユイ?」
「わからないよ…でも、なんか聞きたくない…」
「いや、お前はここで聞いておくべきだユイ。お前はまだ変われるのだ。俺はお前を信じてるぞ」
「ユイちゃん…」
「やめて…やめて…!」
ユイは耳を両手で塞いだ。ユイはもうお父さんの声すら聞きたくなかった。嫌なこと(現実)を全部話されそうで怖かったのである。しかし…
「お前が今まで食べていた肉の数々!それらは全て!動物なんだよ!」
「…!?」
大きな叫び声が森全体に広がる。ユイは必死に耳を塞いでいたが、その大きな声を遮ることはできなかった。そう、それは人間として当たり前に知っていることである。しかしユイは、それを今まで知らず、同じ人間のように命を見ていたのだ。あれはユイの心に直接刺さり、その心に刺さった部分から血が溢れ出るようにユイは泣き崩れる。ユイの鳴き声は森の中でかすかに響く。
「ユイちゃん…」
キツネは泣き倒れるユイを心配そうに見ている。
「ああそうだ本題だユイ。話が少しそれたな。今からお前の子ギツネをいただく」
「…え」
「殺して肉にするんだよ。あとは毛皮を剥いで少しの癒しハンカチでも作るかな。今こっちは色々食糧不足でな。この森も動物が少なくなったし、なにもなしじゃ俺らは帰れねえ。だからせめて子ギツネだけでもやるって話だ。しかも喋るキツネだからな。ぜひその秘密を知りたいものだ。絶対に逃がさんぞ子ギツネ!」
「くっ…」
その時、ユイが立ち上がってキツネの前に立った。
「もう、もうやめてよ…」
「ユイちゃん…」
ユイの足はプルプルと震えている。
「なんでだ?お前の目の前にいる子ギツネは俺らの生きるために必要な肉だぞ。それをお前は食べたくないとでも言うのか」
「ちがう!キツネさんはお肉なんかじゃない!キツネさんは…友達なんだ!」
「ユイちゃん…」
「もう…もうなにも無くなって欲しくない…だから!もうやめてよお父さん!」
ユイは泣きながらも自分の言いたいことを全て吐き出した。
「はぁ…わかったよユイ。お前の言いたいことはよーくわかった。やっぱりダメだったか…まったくつくづく使えない馬鹿娘だ。構えよ!」
(カチャ!カチャ!)
「!?」
「!?」
突然お父さんの周りにいた人たちが銃を持ち、キツネとユイの方へ銃口を傾けた。
「ユイ…お前を信じた俺が馬鹿だったよ」
「お父さん…」
ユイは恐怖で体が動かなくなってしまった。
「ユイちゃん…!?」
「20秒間やってやる。その間に俺たちを振りきれたらお前を逃がしてやろう」
そういうと、お父さんは腕時計のストップウォッチを作動させた。
(ピッ…ピッ…)
ユイは足が震えて体が動かない。
「ユイちゃん!」
キツネがユイちゃんの右手を握る。
「行くよ!ユイちゃん!」
「うわ!」
キツネはユイの右手を持ったまま反対方向へ走る。ユイは涙を拭き取り、キツネと一緒に全速力で走った。
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