21#クジャクは女王様に尽くして、そして・・・奇跡

 「くかーーーーーーー・・・くかーーーーーーー・・・」


 巨大化からすっかり元の身体に戻ったハクチョウの女王様は、身体の羽毛に顔を埋めて鼻提灯を膨らませてイビキをかいて湖にプカプカ浮かんで眠りこけていた。



 すぃ~~~~~~~~~



 そこに、ハクチョウの王様が泳いでやってきた。


 「皆、静かに。」


 周りにはアヒルのピッピやマガモのマガーク、カルガモのガスタ、カナダガンのポピンやコクチョウのブラッキィ等の水鳥達がニヤニヤして泳いで集まってた。


 ハクチョウの王様は、満身創痍で寝ているハクチョウの女王様の顔の前に、萎んだ白い風船を向けた。


 ハクチョウの王様は深く息を吸い込むと、白いゴム風船に息を吹き込み始めた。



 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!




 周りの水鳥達は、皆顔の側面に羽毛に隠れてある耳の孔を翼で塞いで興奮した。




 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~・・・




 パァーーーーーン!!





 「きゃっ!!んもう!!あのアホウドリの島で巨大化した反動で、体力が尽きて回復中というのに!!あんたたちは!!」


 「がーーー!!がーーー!!がーーー!!がーーー!!」


 顔面の側で風船を割られて仰天したハクチョウの女王様に、水鳥達は、お腹を抱えて爆笑した。


 「んもう!!」


 ハクチョウの女王様は膨れた。




 「大変だー!!大変だー!!」


 ハシボソガラスのカーキチとカースケと、ガチョウのブンが、顔を青ざめて飛んできた。


 「なあに?!皆して血相変えて?!」


 「女王様!!皆!!来てくれ!!クジャクのジャニスが!!」


 「ええっ?!」


 女王様と水鳥達は、岸に揚がると急いでクジャクのジャニスの元へやってきた。




 「女王様・・・来てくれたの・・・」


 そこには、クジャクのジャニスが叢に横たわっていた。


 「どうしたの?!クジャクさん!!」


 クジャクさんのジャニスは、荒い息をして虚ろな目でハクチョウの心配そうな瞳をみつめた。


 「ありがとう。クジャクさん・・・尾羽貸してくれて。

 飛べたわ。あんたの力よ。

 返すわよ。」


 「良いわよ・・・あんたにあげる・・・」


 「いいわよ!!貴女に必要でしょ?あれを付ければ魔術が秘めていると、女王様が言ったでしょ・・・」


 「言ったわよ?じゃあ、あんたはどうするのよ?!

 クジャクの尾羽はクジャクのアイデンティティでしょ?」


 「私・・・もうもたないの・・・尾羽が私の命・・・」


 「嘘!?」


 ハクチョウの女王様は、目を見開いた。


 「女王様・・・私はあなたに悪いことをしたのよ・・・?!

 ひとの物を盗んだ償いよ・・・」


 「だって・・・あれは済んだことじゃないの?!」


 「私の中では・・・まだ済んでないわ・・・

 まだ・・・私は1番大切な物をあげて無いのよ・・・

 だから・・・私の『命』を・・・」


 「『命』って・・・嗚呼!!あの時・・・あたしはクジャクさんに何て酷い態度を取ったのよ・・・!!

 何も、貴女の『命』まで賭けなくてもいいじゃないの・・・!!」


 ハクチョウの女王様の目から大粒の涙が溢れだした。


 「だって・・・あれは・・・死んだ・・・フラミンゴの・・・うぐっ!!」


 「クジャクさん!!」「クジャクさん!!」「クジャク!!しっかりしろ!!」

「クジャクさん!!死んじゃやだ!!」


 湖の鳥達は、皆瀕死のクジャクのジャニスが心配になって側に寄ってきた。


 「だから・・・この羽根・・・女王様に・・・あ・・・げ・・・る・・・」




 ぐたっ・・・




 クジャクのジャニスは、ハクチョウの女王様の傍らでこと切れた。


 「クジャクさぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーん!!」


 湖の鳥達は、皆クジャクのジャニスの死に嘆き悲しんで大声で泣いた。


 「ごめんね・・・ごめんね・・・」


 ハクチョウの女王様の目から溢れる涙の粒が、クジャクのジャニスの顔をひたひたと濡らした。



 パァァァァァァァァァ・・・



 その時、奇跡が起きた。


 死んだ筈のクジャクのジャニスの抜けた尾羽の跡からムクムクと、尾羽が生えてきた。


 「えっ!!」


 「えええええええ!!」


 クジャクのジャニスはムクッと起き上がり、どんどん成長していく尾羽を拡げ・・・



 ばっ!!



 「クジャクさんが!!!」


 「生き返ったぁーーーーー!!!」


 突如甦ったクジャクのジャニスは金色の光を纏い、翼を拡げて湖の周りをキラキラと輝きながら飛び回った。


 「ふつくしい・・・」


 「綺麗だ・・・」


 「正しく『不死鳥』だ。」


 「あのクジャクさんは、『不死鳥』なの?!」


 水鳥達は目を輝かせて、華麗に舞い飛ぶクジャクのジャニスにしばし見とれていた。



 更に不思議な事が起こった。



 するするするするする・・・



 「あら?まあっ!!」


 ハクチョウの女王様の持っていた、クジャクのジャニスから貰った尾羽がするすると、自らの尾羽に取り込まれたのだ。


 

 ぶゎさぁっ!!



 ハクチョウの女王様は、翼を拡げた。


 「何だか、自由に飛べそうな気がする・・・」



 ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!ぶゎさぁっ!!



 「ハクチョウよ女王様が!!」


 「飛んだぁーーーーー!!」


 水鳥達は、飛べない身体だった筈のハクチョウの女王様が空を飛んでいるのを見て驚いた。


 「女王様ぁーーー!!あたしも飛べるわよ!!クジャクの尾羽がお尻に取り込まれたと思ったら!!飛べちゃったぁーーー!!

 あたしアヒルだけど、飛べちゃったぁーーー!!」


 「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


 今度は、アヒルのピッピまでもカモのように空を飛んでしまったのだ。


 「奇跡だ!!」


 「奇跡すぎるぅ!!」


 「もしかしたら女王様とアヒルが飛べたのは、クジャクさんのおかげなの?!」


 マガモのマガークは、突然心配になった。


 「そもそも、女王様が飛べなくなったのは、女王様が『魔術使い』になったのと引き換えだよな・・・

 一度奇跡的に女王様が飛べた時は、『魔術』の使いかたを忘れた時だよな。

 もしかしたら・・・女王様は・・・」


 アヒルのマガークは、飛び回るハクチョウの女王様に興奮しているハクチョウの王様に、今さっき膨らまし割ったゴム風船の破片をどうしたか?聞いてみた。


 「割れた風船?ああ、捨てちゃった。」


 「どこ?」


 「ここ。」


 マガモのマガークは岸辺にぽつんとある、割れた白い風船を拾って、上空のハクチョウの女王様を呼んだ。


 「女王様ぁーーーーー!!この風船を再生出来るぅーーーー?」


 「うん!!」


 ハクチョウの女王様は、アヒルのピッピと一緒に降り立った。


・・・もし・・・また飛べるのと引き換えに、魔術が抜けてしまっていたら・・・


 マガークの心配をよそにハクチョウの女王様は、割れた白い風船をまるでガムを噛むようによーく噛んだ。


 ・・・膨らめ・・・!!


 ・・・膨らめ・・・!!


 マガモのマガークは、天に祈るが如くハクチョウの女王様の『魔術』がまだ使えるのを悲願した。


 ・・・すると?




 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!




 ハクチョウの女王様の嘴から、白い風船が大きく膨らんできた。


 「やったーーーーー!!女王様の『魔術』は健在だぁーーーーー!!」


 「それより、18インチ位しかないゴム風船が80センチもでっかく膨らんでるぞーーー!!」


 水鳥達は、はしゃいだ。


 「膨らめ膨らめ!!」


 「割れちゃう割れちゃう!!何時割れちゃうのー?!女王様の風船!!」


 「何はしゃいでるのよ?マガモちゃん!!」


 再生した白い風船をぷしゅ~!と萎ませたハクチョウの女王様は、マガモのマガークに側に寄ってニコッと微笑んだ。


 「いや・・・あのそのぉ・・・」


 マガモのマガークがモジモジしていると、クジャクのジャニスも側にやってきた。


 「女王様ぁーーーー!!」


 「クジャクさーーーーーん!!」


 ハクチョウの女王様とクジャクのジャニスは、お互いひっしと翼で抱き締めると、お互い大声で泣いた。


 「良かった良かった・・・」


 「目頭が熱くなったよ・・・」


 水鳥達は、皆涙を流してハクチョウの女王様とクジャクのジャニスとの友情を見守った。


 「女王様・・・」


 「なあにジャニス?」


 「何時始めるの?『儀式』。」

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