第6話魔法少女プリズムアスカ
退屈な入学式とホームルームが終わり、放課後。
「よし、さっさと帰ろうぜ、桃」
「うん」
おれと桃は自転車置き場へ向かった。
そういえば高嶺さん、ホームルームが終わった瞬間、声を掛ける間も無く帰っちゃったけど何か用事でもあったんだろうか。
「あ~、あれ高嶺さんじゃな~い?」
桃が校門の方を指さすので確認してみた。
う~ん、あっ、あれか、なんかすっごく急いでるな。
自転車であっという間に校門を曲がって、姿を視認できなくなった。
「なんかすごく必死にペダル漕いでたな」
「うん、どこかに行く用事でもあったのかな~?」
「さあ? でもあの方向っておれたちの家と同じ方角だよな」
「そうだね~、あっちの方向に自転車で帰るってことは、距離的に考えてわたしたちと同中のはずだよね~?」
「う~ん、でもおれは中学で高嶺さん見たことないぞ」
「それはわたしもそうなんだよね~」
中学が一緒なら三年の間に必ず一度は擦れ違うくらいはしてるはずなんだけど、全く記憶にないな。ってか、あんなに可愛い子なら一回見たら忘れないだろう、普通。
「まあ、いいんじゃない? こんなの本人に訊かんと分からんのだし」
とは言っても、べつにおれは問い質す気はないけどな。
例えば、知り合って二日目の、とくに親しいわけでもない男子から『家どこなの?』なんて訊かれた女子が快く教えてくれるだろうか? 答えは否! 男遊びに夢中な腐れ糞ビッチならいざ知らず、常識ある普通の女子高生ならまずこちらの言葉を訝しむだろう。
余計な質問をしたらストーカー認定されるかもしれないのに、わざわざリスクを冒してまで訊くことではあるまい。せっかく友達になれそうなのに、自分から台無しにするようなことを言わなくてもいいと思う。
こういう時は同性なら訊き易いだろうから桃に任せてしまおう。
「そうだね~、明日訊こうかな~」
「ああ。それはさておき帰ったら何しようかなー?」
言いながら思い出した。帰ったら何か変なもの仕掛けられてないか調べるんだった……桃のことだし、まあ何もないと信じてるけど……信じてるけど、一応……。
「そういえば、今日ってプリズムアスカの新グッズの発売日じゃなかったっけ~。ねえあいちゃん、お昼食べてから、一緒にアニメショップ巡りに行こうよ~」
そうだった! このおれとしたことが、超絶魔法少女プリズムアスカグッズの発売日を失念していたとは。
ちなみに、超絶魔法少女プリズムアスカというのは、どこにでもいる普通の男子小学生の飛鳥君が、異世界の極悪人に、運悪く重傷を負わされ、正義の魔法少女である明日香ちゃんが魔法で助けようとして失敗した結果、合体して二心同体になってしまい、しかたなく魔法少女となって、次々と襲い掛かってくる極悪人どもを葬りながら、元の体に戻る方法を模索していくという、大きいお友達から小さい女の子まで幅広い人気を誇る大人気アニメで、もちろんおれも桃も大好きだ。
「そうだな! じゃあ一緒に行くか」
部屋を探索するのは買い物から帰ってからでもできるからな。とりあえずグッズ回収を優先しよう。探索の方を優先した結果、何も出てこず、かつグッズも売り切れだった場合が嫌過ぎる。
「うん、楽しみだね~、あいちゃん」
満面の笑みを浮かべる桃。
昔からこの顔を見ると、おれも釣られて笑顔になっちゃうんだよな、ははは。
「よし、そうと決まったら早く帰ろうぜ」
「うん」
そして、おれたちは自転車を走らせて家路についた。
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