日本昔話?
時雨ハル
日本昔話?
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山へ竹取りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おじいさんが竹を取っていると、光る竹を見つけました。不思議に思ったおじいさんがその竹を切ってみると、中にはとても小さくかわいい女の子が座っていました。おじいさんはこの女の子は子供のいない自分達への天からの授かりものだと思い、喜んで家へ持って帰りました。
一方、おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流の方から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。驚いたおばあさんは、おじいさんと一緒に食べようとその桃を持って帰りました。
二人は家に帰ってきて、互いの持っているものに驚きました。
「おやばあさん、その桃の大きいこと。まるでカボチャを桃色に塗ったようだよ。」
「まあおじいさん、その子供の小さいこと。まるでどこぞのメガネオタクが笑いながらつくったようですよ。」
おじいさんとおばあさんは、何故こんなものを見つけたかそれぞれ説明しました。
「じゃあ、ただでさえお米がないっていうのにまた人が増えるんですね。嬉しいったらありませんねえ。」
「ばあさん、そんなことより早くその桃を切って食べようじゃないか。」
おばあさんが桃を切ると、中から元気な男の子が生まれてきました。二人はその子を桃から生まれた桃太郎と名付けました。
三ヶ月ほど経ち、竹の中にいた子供はたいそう美しく育ちました。その子はかぐや姫と名付けられ、桃太郎とかぐや姫は恋に落ちたのです。
「ああかぐや姫、僕は君のためならたとえ神だって倒せるだろう。」
「まあ、ありがとう桃太郎。でもそんなめったなことを言ってはいけないわ。」
「かぐや姫、僕は本気なんだ! どうしてわかってくれないんだ……」
「桃太郎……」
とはいっても、かぐや姫はもう大人の女性になっていましたが、桃太郎はまだほんの子供でした。かぐや姫は、桃太郎の恋は本物の恋ではないと思っていたのです。
桃太郎がどうすればよいか考えていると、打ち出の小槌の噂を耳にはさみました。打ち出の小槌で自分も大きくなればかぐや姫も自分の本当の気持ちをわかってくれると思い、桃太郎は家を飛び出しました。
家を飛び出してはみたものの、打ち出の小槌はどこにあるのか、桃太郎には見当もつきません。困り果てた桃太郎がとぼとぼ歩いていると、女性の悲鳴が聞こえてきました。慌てて桃太郎が悲鳴のした方へ行くと、一人の女性が鬼におそわれていました。
「やや、これは大変!」
桃太郎は腰の刀を抜き、鬼と戦いました。鬼は妙に弱っていて、桃太郎はあっという間に鬼を倒してしまいました。桃太郎が拍子抜けしていると、鬼の口から何かが飛び出してきました。不思議に思ってよく見てみると、それは小さな男でした。
「おい、そこの小さい男。俺は桃太郎という名だが、お前は誰だ?」
「私は一寸法師と申します。」
と言って、一寸法師はぺこりと頭を下げました。ふと桃太郎は鬼におそわれていた女性のことを思い出し辺りを見回しましたが、女性はどこにもいませんでした。そんな桃太郎の心中を察してか、一寸法師は言いました。
「あの方はどこかへ行ってしまわれたようですね。」
「ああ……ん?」
桃太郎が下を見ると、打ち出の小槌らしきものが落ちていました。大喜びで桃太郎がそれを拾うと、一寸法師が尋ねました。
「桃太郎さん、それは何です?」
「これはな、打ち出の小槌といって、何でも願いを叶えてくれるのだ。」
「本当ですか!? では、私を大きくすることもできるのですね?」
桃太郎が打ち出の小槌を使って一寸法師を大きくしてやると、一寸法師はとても喜び、桃太郎についていくことを誓いました。桃太郎は、早速打ち出の小槌で立派な青年になり、かぐや姫を驚かせてやろうと家へ急ぎました。
「かぐや姫!」
家に戻ると、桃太郎はおじいさんとおばあさんへの挨拶もそこそこに、かぐや姫の元へと急ぎました。
「どうしたの桃太郎? そんなに慌てて……」
「僕を見てくれ! ほら、こんなに成長したんだ!」
「まあ桃太郎! あなたの格好いいことといったらないわ。」
「かぐや姫……」
「桃太郎……」
こうして、めでたく二人は結ばれたのです。
――しかし、
「おい一寸法師!早く茶ァ持ってこい!」
「は、はい! ただいま!」
あわれ、一寸法師は桃太郎の奴隷となってしまったのです。来る日も来る日も、働き通し。
「お待たせいたしました。」
桃太郎はお茶を口に運び、不愉快極まりない表情をしました。
「熱すぎる。」
「えっ? でもこれはちゃんと冷まして……」
困り顔の一寸法師に、桃太郎がせまります。
「お前……俺に口答えする気か?」
「そそそんなめっそうもない! ただ私は……」
「だったらさっさと入れ直してこい。それとももう一度一寸に戻りたいか?あぁん?」
そこへ、かぐや姫があらわれました。
「桃太郎?」
「どうしたんだい、かぐや姫?」
振り向いた時の桃太郎の表情は、とてもとっても優しいものでした。
「一体何をやっているの?」
「ああ、一寸法師がお茶を持ってきてくれたから、お礼を言っていたんだよ。」
一寸法師は、それが真っ赤な嘘だと知っていましたが、何も言えませんでした。ここで真実を言ったら、あとで桃太郎に半殺しにされることを知っていたからです。
「あらそうだったの。一寸法師さんは気がきくのね。」
優しい笑みを向けられて、一寸法師は自分の顔が赤くなるのがわかりました。それに、桃太郎の鋭い視線も。もし視線で人が殺せるのなら、一寸法師は既に殺されていたでしょう。
「それで、かぐや姫。何か用事かい?」
桃太郎はきらきら光る笑顔で尋ねました。
「あら。私ったら大事なことを忘れてたいわ。桃太郎、大変なの。」
かぐや姫の話は、最近鬼が村をおそうようになりみんな困っているので、鬼を倒したという桃太郎なら何とかできるのではないだろうか、ということでした。その話を聞くと、桃太郎は胸をはって答えました。
「僕が鬼を退治しよう。」
「本当に!? ありがとう桃太郎!」
桃太郎は、とてもほこらしげでした。
桃太郎が鬼の本拠地、鬼ヶ島に行く準備を始め、一寸法師もそれに習いました。一度桃太郎についていくと誓った以上、ここで桃太郎についていくことをやめるのは一寸法師の武士道に反するのです。
準備をしている一寸法師のところに、かぐや姫がやってきました。
「一寸法師さん、あなたも行ってしまうの?」
「ええ。もちろんです。」
一寸法師は優しく微笑み、かぐや姫が心配そうな顔をしていることに気付いて付け足しました。
「私がいない間の家事はおばあさんに頼んでおきました。少し不便かもしれませんが、我慢して下さい。」
かぐや姫は首を横にふりました。
「そうじゃないの。私、いつ鬼がおそいにくるかと思うとこわくてこわくて……」
「かぐや姫様……」
一寸法師は、自分達二人がいなくなったらこの家を守る人がいなくなってしまうと気付きました。それではかぐや姫が危険です。
「お願いよ、一寸法師さん。あなただけでもここに残ってくれないかしら。」
懇願するかぐや姫を見て、一寸法師は戸惑いました。しかし桃太郎を一人で行かせることが不安でしたし、いくらおじいさんとおばあさんがいるとはいえ桃太郎抜きでかぐや姫と一つ屋根の下で暮らしていては、桃太郎に何と思われるかわかりません。困り果てた一寸法師が悩んでいると、桃太郎がやってきました。
「かぐや姫、どうしたんだい?」
「ああ桃太郎。私こわいのよ。あなたが行ったあと鬼が来ないだろうかと思うと……」
何か言おうとした桃太郎の言葉をさえぎり、かぐや姫はまくし立てました。
「でもみんなのことを考えるとあなたを引き止めるわけにはいかないわ。鬼を倒せるのはあなただけだもの。だからせめて一寸法師さんを、と思って。」
手をつかみ必死なかぐや姫を見て、桃太郎は笑顔でうなずきました。
「じゃあ、一寸法師には残っていてもらおう。」
かぐや姫の顔がぱあっと明るくなりました。
「ありがとう!」
かぐや姫には笑顔を向けている桃太郎から、無言の圧力が発せられていたことは言うまでもありません。
「……ふう。」
風呂から上がり、一寸法師が部屋に入ると、
「か、かぐや姫様!?」
かぐや姫が一寸法師の部屋にいたのです。腕には枕をかかえています。
「い、一体どうされたのですか?」
「一寸法師さん、私……」
よくよく見れば、かぐや姫の瞳には涙がたまっています。
「私、こわくてこわくて一人ではとてもじゃないけど眠れないの。一緒に寝てもらえないかしら?」
「な、な、何を言って……!」
「ダメなの?」
突然のお願いに、一寸法師は動揺を隠せませんでした。ここぞとばかりにかぐや姫がたたみかけます。
「お願いよ、一寸法師さん。一人で寝ていたら気が狂ってしまいそうなのよ。桃太郎には内緒にしておくから、お願い。」
「かぐや姫様がそこまで言うのでしたら……」
一寸法師が戸惑いながらもうなずくと、かぐや姫は嬉しさのあまり一寸法師に抱きつきました。
「ありがとう一寸法師さん!」
かぐや姫に抱きしめられて一寸法師は顔を赤くし、慌ててかぐや姫からはなれました。
「で、ではかぐや姫様のお部屋から布団を取ってまいります。」
「どうして?」
一瞬、一寸法師には言葉の意味がわかりませんでした。
「は?」
馬鹿みたいに聞き返すと、かぐや姫は当然だというような顔で答えました。
「だって、一寸法師さんのお布団があるじゃない。枕はちゃんと持ってきたし、わざわざもう一つ用意する必要はないわ。それに……」
かぐや姫は一寸法師に近付き、ささやきました。
「同じお布団で寝た方が、一寸法師さんの近くにいられるもの。」
ぼんっ。
と音がしたかどうかはわかりませんが、一寸法師の顔はトマトのように真っ赤になりました。
「一寸法師さん?」
そのままかたまっていた一寸法師は、かぐや姫の声で我に返りました。
「なな何を言うのですか! いくら何でもそんなことは!」
「ダメ、かしら?」
「う、あ、いやっ……」
「あ、あの、かぐや姫様?」
「なあに?」
「この手は一体?」
一寸法師の部屋で、二人は仲良く一つの布団で寝ていました。布団からはみ出しそうなはじっこでかぐや姫とは反対側を向いている一寸法師の腹の辺りに、かぐや姫はしっかり腕をまわしています。
「こうして誰かとくっついている方が安心できるの。あ、一寸法師さんが嫌ならやめるけど……、嫌?」
「い、いえ、別に嫌というわけでは、あり……ません。」
「そう。よかった。」
その晩、一寸法師は一睡もできませんでしたと。
桃太郎は鼻歌を歌いながら歩いていました。鬼ヶ島に行ってみれば、鬼達はとても弱くあっという間に倒すことができて、戦利品としてかぐや姫に似合いそうな宝石まで手に入れました。
「よし!」
家の前につき、みんなを驚かせようとこっそり家に入っていきました。一番初めにかぐや姫に会おうと、かぐや姫の部屋に向かった桃太郎の耳に、信じられない言葉が飛び込んできました。
「一寸法師さん、実は私、あなたのことが好きなの!」
「か、かぐや姫様、そのようなことを言ってはいけません。」
「いいえ、一寸法師さん。私本気よ。」
「あなたには桃太郎さんがいるではないですか。さあ、冗談はここまでに、」
「一寸法師さん!」
「な、何をするのですか!? はなして下さい!」
「嫌よ。絶対にはなさない。」
桃太郎の手の宝石が、音を立てて床に落ちました。
「誰!?」
ふすまが開き、その向こうからかぐや姫と一寸法師の顔がのぞきました。
「桃太郎!」
「桃太郎さん!?」
何も言えずに、桃太郎はその場に立ち尽くしていました。
――このあと一寸法師が一方的に悪者とされてしまうことを、誰が予想していたでしょう。
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