チョイっとオフロード
「なんでチョイノリが二台あるのよ」
雨の降った次の日、青空の下には白と黒のチョイノリが二台。その横には珍しくジーパンとパーカーにプロテクター姿のシュワちゃんが佇んでいる。
「オフロードって走ったことある?」
「オフロード? ないわよ」
「この近くにオフロードコース、って言うより小さい砂場があるんだが。行ってみないか?」
シュワちゃんは小さく溜息をついてこう続ける。
「ベンベ、最初から行くつもりでしょ?」
「まあな」
呆れた声を遮るようにヘルメットを被る。
「私ヘルメット汚したくないんだけど」
「そこにあるオフヘル持ってっていいぞ」
言われるがままオフヘルを被り、ゴーグルをつけて、白いチョイノリに跨る。
自分もグローブを履き、チョイノリのエンジンをかけた。何度かアクセルを回しスタンドを下ろす。
「さあ、行くか」
スピード上げながら道路に出る。
「おっそい!」
後ろから叫ぶ声が聞こえた。
「ははは、だろうな。耕運機エンジンは伊達じゃないぞ」
「うぅっ、捻ってもクソもスピード出ないわね」
「捕まらなくて済むな!」
そんな感じで叫び合いながら目的地へ着いた。ほとんど乾いていたが、一部まだ雨で出来た水たまりが残っている。
舗装道路からアクセル全開で砂に突っ込み、砂埃を上げながらリアタイヤをロックさせ滑らせる。一気に周りが見えなくなった。
負けず嫌いのシュワちゃんだ。すぐに追いかけて……来たみたいだ。
砂埃の隙間から白いカウルが見えた。
それから逃げるようにアクセルターンを決めて、走り出す。ちょっとした凸凹でフロントフォークが限界を迎え、衝撃を吸収することなく腕を打つ。リアサスなんてモノは無く、シートには正真正銘そのままの衝撃が伝えられる。
ミラーには必死についてくるシュワちゃんの姿が見える。それを捉えたまま水たまりにダイブすると、フロント部分に泥水が飛び、さらにそこに砂がつく。
一通り走ると、なるべく平地で止まると、横を何かが滑り去った。
「はっはっはっ、随分派手なブレーキだな」
「いてて…もう泥だらけね」
「まったくだ」
それにしてもすぐにバイクは泥だらけになっていた。
「おっと、ウィンカー取れてるぞ」
「うそ、ごめんなさい」
人のバイクを壊したと思い少しテンションが下がったようだが、外れたレンズを被せて軽く押すと、カチッと音と共にはまった。
「ネジなんて使われてないのね。適当なバイク」
「排気量×千円は伊達じゃないからな。ほらまだ走るぞ」
「ええ、もちろん」
ヘルメットの向こうでニヤリと笑ってバイクを引き起こした。そしてすぐにアクセルを捻り走り出す。タイヤを空転させながら先陣を切る。
すぐに後ろをついて走ったが、何かがおかしい。チョイノリがいくら柔らかい砂の上とはいえ空転するほどエンジンが回るだろうか。それに音もかなり大きく……。
「あっ! マフラー!」
叫んだ時には遅かった。マフラーがエキパイ部分から引き千切れ、シュワちゃんのリアタイヤが踏んでいく。かなり派手に跳ねるとそのマフラーが自分のチョイノリのカウルに当たる。
「っぶねぇ!」
同時にブレーキを掛けて止まる。
ヘルメットを脱いで目を合わさる。驚いた顔の次にカウルを見るとマフラーの熱で少し溶けていた。
「ぷっ、ふふっ」
「はっ、はははっ!」
腹を抱えて笑い始める。一度笑い始めればもう止まらない。二人で大爆笑だ。顔を見あって笑い、溶けたカウルと折れたマフラーを見てまた笑う。
チョイノリは所詮チョイノリ。だがそれが楽しい。最低限走るのに必要なものしか付いていない。だからこそ本当の楽しさも感じることができる。自分がチョイノリを手放しきれない理由だ。
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