深夜三時過ぎ

 あれから話が盛り上がり、DVDで本家シュワンツの走りを見て思う存分楽しんだ。そして、なぜか始まったキャッチフレーズクイズ。

「ただアルファベットや数字を付けるだけじゃつまらない」

 間髪いれずシュワちゃんが答える。

「パワーフリー号よ」

 ドヤ顔で見返して来るとさらに口を開き問題を続ける。

「GS50のキャッチコピーは?」

「街でマジ乗り」

 長年ネタにされ続けているキャッチコピーだ。

「あれは流石にダサいわよね」

「まあ、確かにね」

 SUZUKIに乗り続けてる二人とは言え流石に引くこともあるのだ。

「確か学校で初めて話したのもこのキャッチコピークイズだもんな」

 転校して来た時のことを思い出した。あの時は自称レーサーでエロ本を見られたヤバイ女としか思っていなかった。

「最近なはずなのに、懐かしい気がするわね」

 この短い期間に随分と距離が縮まった気がする。まだクラスでは静かな人だが、本当の彼女はかなりの口減らずということを俺は知っている。

「ねぇベンベ、またツーリングしましょ」

「ああ、いいな」

 前回のツーリングを思い出し思わず笑みが溢れた。

「でも信号待ちで殴られるのは勘弁な」

「あ、あれは! ベンベが置いてくから悪いんでしょ」

 そう言って肩を軽く叩いて来た。そうしてまた笑いが生まれる。

 いつの間には俺は素晴らしい日常を手に入れることができていた、そしてその日常は俺のバイクに乗るという生き方に意味を与え始めていた。ひたすらバイクに乗り、目の前のアスファルトを睨みつける日々から、バイクに乗ることを《楽しむ》方向へと変わっていた。

「そういえばカッキーと佐々木さんどうなったのかしらね」

「あいつらなら大丈夫だろ、ただお祭りの後にどうなるかが見ものだな」

 そんな笑談をしている中ふと時計を見ると時針は三の数字を指していた。

「もうこんな時間、明日の学校は大変ね」

 シュワちゃんはケラケラと笑っていた。しかし、俺は明日の朝一で家に戻らなければいけないという現実に直面した。

 落胆し肩を落としてる中、横から提案して来た。

「今から家に戻って制服とバック持って来ればいいじゃない」

 どうやら彼女は話足りなさそうだ、と言う自分もまだ話は尽きないのだが。

「でもガンマは焼き付いてるし、バイクは……」

「GAG、貸してあげてもいいわよ……」

 驚きだった、彼女は意地でもバイクを貸さないと思っていたからだ。

「え? いいのか?」

「ええ、ベンベになら貸してもいいわ、壊さないでよ?」

「ああ、わかってる、すぐに取ってくる」

 鍵を貰いヘルメットを被った。家から出て玄関の影に置いてあるGAGに跨った。

 このバイクは元々かなり小さく、シュワちゃんくらいの身長だからこそ乗りこなせている。流石に男の俺が乗るには窮屈だ。エンジン音は4サイクルなだけあり、かなり低い音だった。

 家に向かい走り出すとさらにびっくりなのが目線が低いため、加速感がとてつもなかった、メーターは四十を超えたあたりなのにバンバンと比べると倍近くはスピードの出てる気分だ。

 家について教科書の詰まったバックに制服を詰めてすぐにバイクに跨りシュワちゃんの家まで全開で戻った。

「ただいま」

 部屋に戻るとシュワちゃんがベッドに突っ伏していた。髪は濡れていてきっとシャワーを浴びたばかりなんだろう。

 声を掛けて普通に起こそうとしたが思わず魔が差してしまった。携帯で珍走団のコール動画を再生し、イヤホンをそっと耳に乗せて大音量で流してやった。

「ぎゃっ!」

 すごい悲鳴をあげて飛び上がった。それを見てまたゲラゲラと笑い転げた。


 次の日、というか今日の学校は地獄だった。

「ねぇカッキー、あの二人同じ格好で寝てるわよ」

「双子みてぇだな」

 朝から例の二人の声が聞こえた、あのようだと成功したようだ。机に突っ伏したまま腕の隙間からシュワちゃんの方を見ると目があった。考えてることは一緒だろう。

 おめでとうカッキー、そして佐々木さん。

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