焼き付きと言う名の笑劇
コンビニに寄った後、お菓子と雑誌を買いシュワちゃんの家に寄った。
「……それで焼き付き?」
まあどこかの阿呆が教師を挑発して走っていたらオイルが漏れて焼き付いた。と言うのは言い訳にしか聞こえないだろう、シュワちゃんがもし「バンバンでレースしたら焼き付いた」と言っても言い訳にしか聞こえない、仕方ないだろう。
「まあ、俺が直すから、任せといてくれ」
とは言うがガンマのエンジンは最低でも一万円は掛かる、買えなくはないが痛い出費だ。
シュワちゃんは「バカみたいね」と笑っていた。と言うか爆笑だった、つられて自分も笑ってしまう。元々ボロいガンマが今となってはもっとボロボロだ。
夜の住宅街に笑い声が響き渡る。
「それで、ガンマはどうするの?」
ひとしきり笑い切ったあと、ようやく会話ができるようになった。
「まあボチボチ直そうと思うよ」
「そう」
一息ついてまた喋り始める。
「なあ、前にKSに乗ったろ? あれで今度レースに出てみようと思うんだけど、どお?」
暗闇に目が光る。彼女は自称レーサーだ、食いつかない訳ないだろう。
「もう保安部品も外してあるし、革ツナギも買った、まあ草レースだけどさ」
「もちろん」
食い気味で返答が来た、そしてこう続けた。
「私のGAGは」
「ダメ、あれじゃあスクーターのHIにも負けるぜ?」
シュワちゃんの戯言を遮った。実際バンバンと走って負けてるんだからそんなものだろう。所詮はバーディーのエンジンだ。
「KSはもう預けてあるし今度の日曜でも行くか、小さいサーキットだから遊び程度だけど」
クスクスと笑っていると夜風が頰を撫でた。
「なあ、シュワちゃん」
「なに」
「そろそろ家の中に入らね? 寒い」
お祭りから帰って来て一時間近くガンマの前で話している、流石に夏とは言え寒くなって来た。
「そ、そうね! 忘れてたわ!」
ふざけた笑いをしながら急いで家の中に入って言った。ため息をついて家の中に入ろうとしたら扉から顔を出した。
「少し待ってて、五分で終わる」
そう言い放つとまた家の中に消えた。
あと五分、冷え切った体であと五分はちとキツイのが本音だ。よりによってなんで今日は寒いんだ。
心の中で愚痴を並べているとようやく扉が開いた。
「いいわよ、上がって」
「お邪魔しまーす」
リビングの電気は消えていた、多分親も寝ているだろう、出来るだけ静かに挨拶だけして階段を登った。なんかか部屋がありその一つにシュワちゃんが入っていくのに続いて部屋の中に入った。
「す、すげぇ……」
そこには宝の山が広がっていた、恐らく普通の人から見ればゴミの山かも知れない。でも少なくとも俺とシュワちゃんの二人には宝の山だった。
「これってもしかして! ヨシムラのマフラー?」
「そうよ、中学の頃に必死にお小遣いとお年玉貯めて買ったの」
「いい音するんだよな」
見惚れているととあることに気がついた。
「でもシュワちゃんのGAGって外装以外フルノーマルだよな?」
外装は純正に無いペプシ仕様だがそれ以外は全てノーマルだ、これだけパーツを集めていればフルカスタムすることも出来ただろう。
「そ、それは……」
頰を赤らめ額には汗を浮かばせ目線をそらした。
「自分でいじるのが、不安で」
確かにガンマを整備したのも俺がやっていたから気がつかなかったが自分でバイクをいじっては姿は見たことがない。
「なるほどな」
ニヤつきながらそう言った。
「なに笑ってるのよ」
ムスッとした顔を見てさらに笑いが溢れた。
「いやなんでもない、今度つけてやろうか?」
「ホント!?」
本当に表情がコロコロ変わって面白い、まあ個人的にGAGのヨシムラマフラーの音も聞いてみたい。今度の休日が楽しみだ。
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