普通のお泊まり。
海からカッキーの家に直行し、シャワーを借りた。潮が体から落ちてベタつきが落ちて行くのがわかる。
シャワーもそこそこに体を拭いて部屋に戻る。そこにはカッキーと中根君だけだと思っていたが、佐々木さんまで来ていた。
部屋の真ん中にあるテーブルにはジュースとお菓子が広げられテレビにはB級ホラー映画が映し出されていた。現在深夜零時過ぎ。
どうやら今夜は寝れなそうだ。なんてったって全員パジャマではなく、ジャージだ。少しでもパジャマ姿に期待してた俺がバカだった。
「で、なんでシュワちゃんと佐々木さんまで呼んだんだ」
3人が映画まじまじと見てる後ろでカッキーの肩に手を回して小声で呟く。
「ほら、お泊まり会でもしたら仲良くなれるかなって」
「でも男女がお泊まりって」
そう突っ込もうとした時、テレビから断末魔が流れた。B級映画特有のビックリ系ホラーだ。
中根君と佐々木さんはかなり冷めたように見ていたがシュワちゃんだけが地面から浮いた。声は我慢したようだが、そんな飛び跳ねるほど怖くないだろうに。
「ほら、楽しそうだしいいじゃん」
何も言い返せなかった。そんな映画もほどほどにこの後にあるテスト、そして学校祭や夏休みの話をした。
「そういえば学校祭前にテストあるけど勉強したの?」
佐々木さんが問いかけるがしてるわけがないだろう。
「まあカッキーとあなたはしてないでしょうね」
先に言うなよ、と心の中で突っ込む。
「まあな、でも中根はいいよな」
「?」
佐々木さんの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。去年はクラスが違うから無理もないだろう。
「そういえば佐々木さんは知らないもんな、中根君教科書見るだけでほとんど覚えれるんだよ」
「何それ!ホント!」
中根君を問い詰める。わざわざ嘘をつく必要もないだろうに。
「ま、まああんなの簡単だよ」
少し噛みながら中根君が自慢げに言うがそれには続きがあった。
「でもこいつ去年とテスト途中腹痛くて赤点ギリギリだったんだよ」
カッキーが嬉しそうに話す。
「そうそう、現代文のテスト途中で中抜けしてな」
「何それ、バッカみたい」
あまりにもアホみたいな話で笑いが出る。そりゃ、トイレさえ行かなかったら順位一桁代に入るくらいには優秀なのに、ウンコしただけで赤点ギリギリだったんだ。
「でもそう言うカッキーと君だって数学と英語赤点だったじゃないか」
心に刺さり変な汗が出た。図星を刺すなよ中根君。
「いいんだよ、評定で1が付いてないから」
「そうそう、30点以下でも退学にならなきゃセーフセーフ」
カッキーの謎理論に便乗して反論する。
「全く、アホみたいね。金令さんはどうなの?」
「えっ」
おいシュワちゃん、なぜ黙るんだ。沈黙が意味するのは一つだぞ。
「まさか木穂ちゃんが毎回赤点ギリギリなんてことはないよな!」
悪意があるわけではないだろうが、カッキー、今そういうことを言うな。
「う、うん」
こいつ嘘をついてやがる。こいつら気づいてないのか。
バイクしか乗ってなく、昼は走り、夜はレースを見るような生活をして来たようにしか見えないシュワちゃんが赤点取らないわけがないだろうが。
「ふーん」
そんな調子で話を続けて早一時間、現在時刻一時三八分。流石に海の疲れも出たのかウトウトしてきた。
「決めたぞ!夏祭りまでに彼女を作るぞ!」
カッキーが何やら叫んでいる。ああ、いつものか。泊まりに来ると何かと彼女を作ろうとしている。
深夜のテンションほど恐ろしいものはない。
「それじゃあ私だって作るわ!」
何言ってんすか、佐々木さん。
「中根!お前も一緒に作るぞ!」
中根は既に撃沈していた。そしてそれを見たのを最後に意識が途絶えた。
息苦しい、体が重たい。
苦しさのあまり目が覚めた。外はほんの少しだけ明るくなり、青白い光が差し込んできた。
そこで気づいたが、なぜか押入れに上半身だけ入り、下半身が投げ出されてる状態になっていた。
何より驚いたのが腹の上にシュワちゃんの頭があった。そりゃ重いわけだ。
部屋を見渡すと阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
まずなぜ中根君と思われる足がベットの下から突き出ていた。カッキーはりんごジュースのペットボトルを抱きしめ、テーブルの下に突っ伏していた。
唯一まともな寝方してるのは佐々木さんくらいだろうか。ポテチの散らかったベッドの上で寝るのがまともかどうかは置いておくが。
とりあえず、シュワちゃんの頭を避けようとした。頭をずらして一旦押入れから出ようとするとそのままずり落ちてしまった。
床に背中が叩きつけられる。その直後、胸部に衝撃が走る。
落ちた時に、シュワちゃんの服に手が引っかかっていたようで一緒に落ちたようだ。
周りを見渡すが誰も起きていないようだ。心臓が痛い。
シュワちゃんを横にずらし、上半身を起こす。
「うぅ」
シュワちゃんの口からうめき声が漏れた。
「起きたのか」
「ん、誰」
寝ぼけてるのか俺が誰か分かっていないようだ。
「おはよう、バイクの妖精だよ」
「ん、ベンベ」
渾身のボケがスルーしないでくれ。
「みんなまだ寝てるよ」
「うん」
ヘルメットを取って渡した。
「え?」
「片付けめんどくさいだろ?」
そうさ、逃げるのさ。片付けはこいつらに任せよう。そういうことにして、内心はただ走りたいだけだった。
「うん」
夜明けの町にエンジン音がこだました。
車は一台も走ってない町を全開で駆け抜けた。目的地なんて無い。
時に俺が先導し、時に彼女が抜かし、先を走った。そしてようやく止まったのが峠の駐車場だった。
ヘルメットを脱ぎ町の方を見ると、朝日が当たり始め、曙色に染まっていた。
「なあ、なんでGAGに乗ってるんだ」
不意に、ずっと疑問だったことを聞いてみた。
「私はレーサーだから」
「そうか」
それ以上は何も言わなかった。そうだった、彼女は会った時からずっと自称レーサーだ、それなら仕方ないだろう。
「ベンベはなんでバンバンなの」
「別に、理由なんてないよ」
偶然手に入り、俺が直せただけ。別に理由は無い。
「来週の土曜か日曜、暇か?」
「うん」
「少し遠くまで走りに行かないか」
少し考え、ヘルメットを被りこう答えた。
「下りで勝てたらいいよ」
望むところじゃないか。
「面白そうだな」
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