ギャグ的な日々の始まり

 日曜日が終わり悪魔の月曜日。それが冗談抜きで悪魔の月曜日になるとは。

 前々から噂になっていた転校生。朝のHRで紹介された時生徒全員が盛り上がった。

 ただ一人、俺を除いて。

金令かねりょう 木穂きほです。よろしくお願いします」

 拍手が鳴り響くなか開いた口が閉まらないとはこのことだ。そう、昨日のギャグ女及びシュワンツだ。

 一時限目前の休み時間。あからさまな視線を感じたが、俺は気付かないふりをした。

 幸いシュワンツ女の周りにクラスの人が群がり、話しかけてくることはなかったが少なくとも俺はリュックに大手ヘルメットメーカー《Arai》のキーホルダーをぶら下げ、自分の本を見られた女とは関わりたくはなかったのだ。

 だから自分から話しかけに行くなんて愚行はするはずもなかった。俺はそこまで馬鹿じゃない。

「こんな田舎に引っ越してくるなんて大変だな」

 笑い声に合わせ背中に衝撃が走る。まあいつものカッキーだ。

 そして当たり前かの如く中根君が付いてきてる。お前ら付き合ってんのか。

「親の都合らしいよ、まあ普通だよね」

 お前らは知らないだろうが俺はあいつに本を見られてるんだ。なんかあったらお前らも巻き込んでやるからな。

「へぇ、そっか」

 適当に返事を返す。下手に話題にするとシュワンツに絡まれるかもしれない。

 そんな感じで1日を過ごした。何もしてないはずだが異常に疲れた。掃除が終わったあと一息ついて玄関へ向かった。

 その時はシュワンツ女のことなんて考えもしてなかった。

「スズキ、バンバンシリーズのキャッチコピーは」

「地球に乗るならバンバン」

 無意識に答えてしまったがその声がシュワンツ女と気づいた時にはもう遅かった。

「な、なんだ!?」

 思わず裏声で情けない声が漏れる。

「チョイノリの新車価格」

 最初出会った時に頭がおかしいと思っていた。そして今確信した。

 このシュワンツ狂ってるわ。

「ご、59800円」

「キャッチコピー」

「走れ、国産」

 チクショウ、答えてしまう。だが詰まったら負けな気がした。

「ふ〜ん」

 シュワンツ女、もといシュワ子は何かを悟ったような声を出し口元が少し緩んだ。

「なんだ、バイクが好きなのか?」

 シュワ子は打って変わって焦った表情を浮かべる。ここまで来て気付かないわけがないだろう。昨日のあの事も見出るわけだし。

 普通の人に見られたならもっと焦るだろう。なんてたってこの学校で免許の取得は禁止されているから。

「今度バイク跨らせてよ」

 これは別にお願いじゃない、一種の質問だ。それはどうやらあっちも気が付いたようだ。

「ダメ」

 もちろんそれで終わりではない。

「どうしてもって言うなら自分のお金で買って、バイクってそう言うものでしょ」

 模範解答だった。バイクが好きでコアな質問をしてくるシュワ子ならわかると思っていた。

 それは同じバイク乗りだからこそわかった事だろう。

 それに恥ずかしがりながら答えてる姿もなかなか面白かった。自分から話しかけて来たはずなのに。コミュ障なのかお喋りなのかよくわからない性格だ。

「それじゃあ帰るわ」

 鞄を背負い直し玄関へと振り返る。

「ね、ねぇ」

 呼び止められ足を止めたが振り返ることはしなかった。

「名前は」

 朝先生から教えられてるはずなんだが。まあ初日だし忘れるのも無理はない。

「適当なあだ名で呼んでくれ」

 そのまま振り返る事なく手を振って歩き出した。

「エロ本おじさん」

 急いで振り返りシュワ子の肩を掴む。

「それだけはやめてくれ、それにそのことは忘れてくれ」

 少しムッとした顔をしたがいい訳がないだろう。クラスの前で「エロ本おじさん!」と元気よく呼ばれてみろ。次の日から不登校になる。

 それに見た目が少しおっさん臭いだけで別に健全男子高校生だ。

「じゃあベンベ」

 なぜBMWなのか、それに今時ベンベなんて呼ぶ人はいないだろう。

「それでいいけど今度からお前のことシュワちゃんって呼ぶからな」

 最後にシュワちゃんの面白い顔が見る事が出来て満足だ。別れ際に「やめてぇ」と言う情けない声が聞こえたが次こそ手を振って玄関に向かうことができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る