スライム日和

時雨ハル

スライム日和

 ある日の放課後。季節の変わり目である今日は、雨がよく降るわけでありまして。

「あー素晴らしき豪雨。こんなん折りたたみ傘一つで帰ったら水もしたたるイイ女ですよ奥さーん」

 誰に話しかけるともなく呟いてみる。何となく呟いちゃう程の酷い雨。酷すぎ。もう帰りたくない。むしろ帰ったら風邪引いちゃうよこのか弱い身体がさぁ。

「やだなー」

 それでもいつまでも下駄箱付近で呟いているわけにもいかず。「帰りたくない」を連呼しながら私は外に出た。


 が。


 もちろん私は外に出た。出たと思う。むしろ出たい。しかし今私がいる場所は雨が降っていない。熱いくらいの晴天。

 いや待て。それ以前にここは学校じゃない。学校付近じゃない。日本でもない。これじゃあまるで――

「ファ…ンタジー?」

 いかにもふぁんたずぃーなどうくつの前に立ってるんですよ。その上森の中。どうしてくれるんですかこれ。どうやって帰るんですかこれ。どうしよう。いや待て待て待て待て落ち着け自分。

 とりあえず私は辺りを見回した。森、森、森。草木が深すぎて周りが見えません。

 そんなことをしていると、すぐそばの草むらでガサガサッと音がしました。

「だ、誰っ!?」

 怯えて叫ぶと、草むらからお兄さんが出てきて何か知らないけどすっごく驚いてます。いや驚きたいのはこっちだよ。

「な、何だお前? もしかして新種のモンスター!?」

 そんな事言われたって、何でここにいるのかなんて分かんないし。ていうかここまさかモンスターとか出るの? その上私モンスターに似てるの?

「えっと、あの――」

 色々聞いたり説明したりしてみようと口を開くと、見はからったかのように再び私の背後の草むらで音が。

 あれ、何でお兄さんそんなに険しい顔してるの。まさかモンスターとか言わないよね。ね? そうだここは一つ後ろを振り返ろう。大丈夫うにょうにょって音しかしてないから。え、うにょうにょ?

 恐る恐る音の方を向いてみると、そこにいたのはなんとまあ可愛いスライム。

「かっ……かわい……」

 思わず私は手を伸ばした。

「危ない!」

 叫ぶ声がしたかと思うと、あわれスライムは真っ二つ。

 ――私、これからどうなるんだろう。

 その時私は、初めてそんなことを考えた。

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スライム日和 時雨ハル @sigurehal

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