十四、冥途の火について
この部分は原題はつけられていない。また順序でいえば最後の頁に相当し、完結のかなり後に書き加えられたものであるという。内容的には前章に付随するものなので順番を前後させて掲載する。
さてあるところに二人の朋輩がいた。その仲の良さは大変なもので世に類を見ないものだった。ある時にその一人がこう言った。
「もし君が私より先に死んだら、来世の事を詳しく教えに来て欲しい。私が先に死んだとしたら、死後三日以内に必ず教えに来るからね」
二人は堅く約束し合ったのだが、それから暫くもしないうちに一人が本当に死んでしまったのである。
残された一人は大いに哀しみに暮れ天に地に叫んで嘆き悲しんだがどうしようもなかった。ようやく正気を取り戻した頃には既に三日三晩が経っていて、以前約束したあの世からの報せを待つ他あるまいという心持になった。
それから三年の歳月が流れたがそのような報せは一切起こらず、もう頼みも綱も切れたのであろうかと焦がれ死にそうな気持になってしまっていた。しかし三年と三カ月が経った頃、ついに報せが来たのである。その時の悦びはもう大変なものであった。
「どうしたのだね。随分と遅かったではないか」と尋ねたところ、立ち帰ってきた人が言うには「片時も暇が無かったのだ」との事だった。
その顔色が常に変わり続けていたのでおかしいなと思っていると、その顎の下に火が在るのに気が付いた。それは一体何だと尋ねると「この火はいわゆるふるかとうりや(煉獄)の火だよ」と答えた。
生きている方の人はそれを聞いて「それならば、その火を私にくれれば良い。私の身体の罪咎を今この世で焼き滅し、一緒にこの世を去りたいと思うのだ」と言った。それを聞いた死んだ方の人は「それはいけない。この火はこの世の火の十倍も熱いのだよ。なかなか耐えられるものではない」と断った。
しかし「そんな事は苦しみのうちに入らない。是非くれ」と何度も頼み込むので、最後には「それならば望み通りにしなさい」と言い、手ごろな枯木を積み立ててから冥途の火を移したのである。
すると途端に焔が激しく燃え上がり、たちまちのうちに身体が巻き込まれて焼け失せてしまった。そうしてすぐに天の道を得てぱらいその列に加えられたのであった。
この二人のうちの一人は三とうす様と呼ばれ奉られている。もう一人の御方の名前は、訳あって書き記さずにおく。
【註釈】伝説の話や教義から離れた、おそらくは『天地始之事』が書かれた当時が舞台の話なのだと思われる。三とうす様とは日本人隠れキリシタンの洗礼名なのだろう。煉獄の証拠が現実にあった話として附記されたものか。
「死後の世界があるなら必ず連絡する」と言って死んだ者が帰って来て地獄の火を見せ、地獄の実在を証明するという話は仏教説話にも見られ、先行するそれらの話の翻案のようにしか見えなくはある。
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