第95話 ハルの成人式
正月そうそう、ユウとリンは新幹線に乗っていた。ハルの成人式に出るためである。ハルの地元である長野県小諸市の成人式は、正月休み中に行われる。去年のユウの成人式でハルは来年の自分の成人式に来てくれないか?とユウとリンに頼んでいた。ユウの家のミニバンはタイヤチェーンやスタッドレスタイヤの用意がない。車にスチームローラーを積んで行ってもどうせ雪で走れないだろう。あっさりあきらめて、ユウとリンは手荷物だけで新幹線に乗った。
隣で口を開けて寝ているリンの顔を見ながら、少しユウは不思議だった。地元に両親と友人がいるハルが何故自分たちを成人式に呼んだのか?
新幹線は上田駅に止まると、ユウとリンはホームに降り立った。東京に比べるとやはり寒い。駅のロータリーに出ると、ハルの父が迎えに来てくれていた。
「明けましておめでとうございます。わざわざ東京からありがとう。」
ハルは母と一緒に美容院で着付けをしているところで、写真館で落ち合うことになっている。
写真館に着くと、
「明けましておめでとうございます。」振袖を着たハルが小走りで駆け寄って来た。
「かわいい〜。」ユウは褒めた。こけしのような可愛らしさだ。
「まるで七五ぐふっ!」ユウのエルボーがリンのみぞおちに決まった。
ハルの振袖は家にあった反物の中から選ばれたもので、ずっと昔から家にあったものらしい。地味だがいかにも上質そうなのが、ユウとリンにも分かった。ようやく出番が来て、反物も喜んでいるでしょう。静かに微笑むハルの両親だった。
小諸市文化センターで行われた式典にはハルと両親が出席して、ユウとリンは近くのファミレスでお茶にする。他の席には式典には出ないで友人と楽しそうに話している新成人が何組もいた。
式典が終わると、ハルと両親はすぐに出て来た。
「同窓会とかないの?」
「別にないみたいですよ。」ハルは素っ気なく答えた。家に戻るとすぐにハルは普段着に着替えた。
その日はハルの家に泊まり、柏木家のおせちとお酒を振る舞ってもらったユウとリンだった。特にリンはハルの両親から
「娘が料理をできるようになったのは、紅尾さんのおかげです。」とお酒をしこたま飲まされていた。
翌日、ハルがユウとリンを上田駅まで車で送ってくれた。
「私、高校まで中二病だったですよ。自分が特別な存在だと思って、他人を寄せ付けなかったから友達もいなかったです。これではいかんと思って、東京の大学に行って青春をやり直したいと思ったですよ。」
「清空寮の先輩たちと『ワンスモア』のメンバーはみんな私の大事な人たちです。」
「だから、ユウ先輩とリン先輩が私の成人式に来てくれて嬉しかったです。」
意外だった。どんな人とでもすぐ仲良くなれるコミニュケーションモンスターだと思っていたハルにそんな過去があったとは。
帰りの新幹線でユウはリンにハルのことを知っていたのか尋ねた。リンは二日酔いの頭で面倒くさそうに答えた。
「いいじゃないの、今が素敵なら。」
それもそうだ、大事なのは現在なのだから。ユウはそう思ったのであった。
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