第94話 ユウとリン、静かなクリスマス
今年のユウとリンのクリスマスパーティーは二日連続二本立て、しかも24日、25日の開催である。24日が『ワンスモア』のパーティー、25日がユウとリンだけのパーティーであった。
『ワンスモア』のパーティーは、去年ユウとリンが見たクリスマスイルミネーションをみんなで見ようと夜の開催になった。ポタリングしながら、何軒かのイルミネーションを見て五色のマンションでパーティーとなる。始まった時間が遅かったので、みんなが酔いつぶれて寝たのは明け方のことだった。
ハルは実家のおせちを作る手伝いをしなければいけないということで、リンの家に戻るとそのまま帰省してしまった。ユウも一旦家に帰って、夕方まで横になって過ごした。夕方にはすっかり元気になったユウはスチームローラーでリンの家に向かう。
「いらっしゃい。ようこそ、きよしこの夜。」
「???」
昨日の料理に何か悪い物でも入っていたのだろうか?
服装もいつものリンとは似ても似つかない、黒っぽいロングスカートのワンピースという清楚な服装である。
リンが通っていた女子高はカトリック系だったそうだが、今さら神に目覚めた訳でもないだろう。
「今日は神に感謝して静かに過ごしましょう。」ますます気味が悪い。
リンが用意したワインをグラスにつぐ。今日は珍しく赤ワインだ。
「赤ワインはキリストの血。一杯だけ頂きましょう。」いや、リン赤ワインは悪酔いするから白がいいって言ってたじゃない。つうか悪酔いする程飲まなきゃいいじゃないですかってハルに突っ込まれてたじゃない。
クリスマスパーティーは何となくしめやかな雰囲気になった。今年はプレゼント交換もなしにしましょうと言われたので、何も用意していない。
「昨日は疲れたでしょうから、今日はもう寝ましょう。ユウ、先にお風呂に入って。」お約束の一緒にお風呂に入ろうアピールがない。まさか乱入してくるんじゃないでしょうね。ユウはずっと浴室の戸を睨んでいたが、その様子はなかった。
ユウがお風呂から上がって、代わりにリンが入った。二階の寝室に上がろうとして、ふと玄関に置いてある自分のスチームローラーを見るとリアラックが交換されている。リンのと同じドイツのTUBESのリアラックだ。TUBESのラックは世界一周のツーリストにも多く使われている一級品で、当然のことながらお安くはない。
「ズルいなあ。私、何も用意してないよ。」あとで何かお礼をしなければ、と思うユウだった。
リンがお風呂から上がるまでユウは先にベッドに入って、上半身を起こして文庫本を読んでいた。
「お待たせ。」ほかほかのリンがベッドに入る。ユウも文庫本を置いて横になろうとした時、
「ユウ」
いきなり呼ばれた。「何?」と言いかけながら、ユウが振り向いたところに、すぐリンの顔があった。ユウは唇に温かくて柔らかい感触を感じた。
「お休み。」ぱっとリンは横になって、ユウに背中を向けた。
やられた。まんまとやられた。油断した。
リンは背中を向けて寝たふりをしている。してやったりと思っているのか? それともユウの怒りを恐れてびくびくしているのか?
「ばかね。」赤面したユウは心の中で呟いた。最も「してもいい?」と聞かれても、流れるように「お断りします。」と返しただろう。
別にイヤじゃなかった。リンに対して怒りもない。でもそれを言うと調子に乗るだろうから言わない。
まあ、いいか。クリスマスは奇跡が起こるというし、神様がリンにご褒美を与えたと思えば。
ユウも横になって、背中をリンの背中にくっつけた。リンの温もりがユウに伝わる。
「メリークリスマス。」
ユウとリンは眠りについたのだった。
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