第90話 ユウリンハルカナ、しまなみへ行く

夏休みに入って、『ワンスモア』のメンバーが乗ったミニバンは今年も高速道路をしまなみ海道に向かっていた。今年の参加メンバーは、ユウとリン、ハルとカナの4人である。


マナとヒワは、就職活動に時間と費用を取られバイトの日数も減って、旅行に行く余裕がなかった。静里と美宇奈は行きたがっていたが、それぞれリーベンデールとサーリーロウサイドにお金がかかってしまい、しまなみ海道に行くことができず悔しがっていた。


ミトやレイ、コトコのOBにも声をかけたが、残念ながら予定が合わなかった。


「リンも行くんですか?」ユウが素っ気なく尋ねた。


「当たり前よ。開放的なしまなみ海道の空の下、ユウとのサイクリング、一緒のお風呂、ユウと二人きりの夜。逃すことはできないわ。」


「あの〜、私とカナちゃんもいるですよ。」


「大丈夫! あんたたちは目に入らないから!」何が大丈夫なのか良くわからないハルとカナだった。


気心の知れた『ワンスモア』のコアメンバーの4人である。プランニングは副部長のカナが行った。張り切ったカナは分刻みのスケジュールを作ってきたが、ユウがサイクリングでそれはムリと笑って、まず行き帰りの方法と良さそうな宿を探すよう話した。


新幹線で行くことも考えたが、四人で四台の自転車を輪行すると自転車を置く場所の関係で座席が離れてしまうことになる。それはつまんないね、と今年はみんなで車で行くことにした。一泊余計に宿泊することになるが、時間に余裕のある学生のことではあるし、朝一でしまなみ海道に入ることができる。費用も新幹線での往復より安く済むので、反対意見はなかった。


夕方に福山に着いて、駅そばのビジネスホテルに泊まる一行。いつものくせで、ユウと一緒のベッドで寝ようとするが、狭いから一人で寝ろと追い出されたリンだった。


「狭いベッドでくっついて寝るのがいいんじゃない。ユウの腕枕で寝たい!」


駄々をこねて、何度追い出されても一緒に寝ようとする、ユウの家の飼い猫のようなリンだった。


結局諦めて、一緒に寝るユウとリン。


「私の胸に顔をうずめないでください。」リンはイヤイヤと顔を振った。

「顔を動かさないで、あああん♡」


朝、体がばりばりに強張っているユウとユウの生気を吸い取ったのか、ツヤツヤぴかぴかの顔をしたリンだった。


福山から高速道路でしまなみ海道に入る。橋から眺める海の景色。一年ぶりにしまなみ海道に来た実感がわいてきた。


今回は、岩城島の民宿に二泊することにして民宿を起点にポタリングをすることになっている。今治まで走行しなければならないプレッシャーがあった去年に較べると、ずっと気楽だし、荷物は民宿に預かってもらえるから最低限の装備で済む。民宿は四人一部屋の和室なので、ユウも安心して眠れた。


生口島のジェラート、レモンケーキ、大三島の大山祇神社、レモネード。伯方島の塩ソフトクリームそして民宿の新鮮な魚介類の夕食、島レモンサワー。景色のいいところで食べるグルメ。幸せだが体重増加が気になる四人だった。


三日目はメインイベントであるウサギ島訪問である。大三島から船で大久野島へ行く。大久野島は旧日本軍の毒ガス研究所があった島で、今ではウサギが島中に生息している。人なつこいウサギがエサを求めて、ユウたちのところにやってくる。手からエサを食べさせたり抱っこしたりして、ウサギとのふれあいを楽しむ4人だった。


最終日、お昼ご飯を済ませるとジャンケンで負けたハルが民宿に車を取りに戻り、ユウたちは名残を惜しむようにゆっくり尾道に向かって走った。そしてハルと合流すると午後3時過ぎに尾道を出発する。夜、真っ暗な高速道路をカナが運転しハルが助手席に座っている。後ろの座席では、ユウとリンがもたれあって寝ていた。


「楽しかったね。」

「みんなで行くとやっぱり楽しいですよ。」

「来年は、静里と美宇奈を連れて来ないとね。」


しまなみ海道行きは『ワンスモア』の恒例イベントとなったのであった。

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