第89話 リン、22歳の誕生日
6月10日は、リンの誕生日。
リンも22歳となる。ユウと知り合ってから、3回目の誕生日であった。
毎年、プレゼントはリボンを付けたユウが
「リン、誕生日おめでとう。今年のプレゼントは、わ、た、し♡」
というのを夢見ているリンだったが、その希望はことごとく打ち砕かれてきた。
最もユウがそれを聞いたら、
「夢を見るのは自由だし、
と冷たくあしらわれるだろう。
リンは初めて会った時から、ユウのことが大好きだった。ユウは、その気持ちに気付かないのか、それとも気付いていて無視しているのか?
たぶん気付いていても、どうしたらいいのか分からないのだろう。
ユウはリンと出会った時は紛れもなく少女だった。徐々に大人びてきたユウは今、少女の可愛さと大人の美しさの両方を兼ね備えた、独特の雰囲気がある。それはもう少し時間が経てば、失われる儚さに違いなかった。
もうリンは我慢の限界だった。今年はキメる。ユウに自分の気持ちを伝えて、押し倒そう。もし拒絶されたら? 私、もう生きてる意味ない。思い詰めるリンだった。
夕食の後、食器を洗いながら、ハルが誕生日プレゼントは何がいいですか? と尋ねた。
「ユウと二人きりにして。」
ハルは、リンの気持ちが通じたのか、にやりと笑った。ハルはカナと一緒に五色のマンションに遊びに行き、泊めてもらうことになった。
そして、リンの22歳の誕生日。ハルはグッドラック、と親指を立てて外出した。
ユウは夕方、スチームローラーでやって来た。ワインで乾杯し、ハルが用意してくれたディナーを頂く。ユウを見ながらリンは、ああ、可愛いなあ。ユウを永遠に自分だけのものにしたい。と思った。
どのタイミングで告白して押し倒すか? リンは緊張のあまりワインをあおり続けた。すごい勢いでワインを飲み続けるリンが心配になったのか、ユウが切り出した。
「ちょっと言いづらいんですが、、、」
ユウは少し赤くなって、もじもじとした。
リンは、ハッとした。今年のプレゼントはユウなの? 私たち、やっぱり両想いだった。ユウ愛してる。感激のあまり、リンはユウを押し倒そうとした。
「リン、就職活動はどうなってるんですか?」
「へ?」
「マナ先輩もヒワ先輩も就職活動で忙しそうじゃないですか。 でもリンはいつも部室にいるから。」
リンの目が泳いだ。
「えーっと、来年は就職浪人して、それでユウと同じところに就職しようかな、と。テヘ。」
ユウの目が吊り上がった。歯ぎしりの音がして、拳を握り締める。
「そこに座れ。」
ユウがリビングの床を指差して、鬼のような形相でリンを睨んだ。
リンはおずおずとリビングの床に正座する。
「あなたは何を考えているんですか? 人生の一大事をそんなことでどうするんですか? 若い時期の一年を無駄にするんですか?」
ユウの説教は深夜まで続いた。リンは涙目になりながら、
「ちくしょう。いつか、こっちがヒイヒイ言わせてやる。」と思ったのだった。
一方、その頃。ハルとカナ、五色の酒宴は大いに盛り上がっていた。ビールやワインは飲み尽くし、五色のとっておきの日本酒を酌み交わしている。
「今頃、二人はベッドの中かしら?」
「ユウ先輩はリン先輩にアンアン言わされてるんじゃないですかね。」
「明日、ユウ先輩をからかいましょう。恥ずかしがるユウ先輩、きっとすごくエロ可愛いですよ。」
「あははははは。」「ぎゃははははは。」
乙女たちの下品な笑い声が、マンションのリビングに響き渡るのであった。
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