第99話 リン、卒業する

今日はリンの卒業式。ユウはもちろんユウの両親も出席して、みんなで写真を撮った。ユウには、パンツスーツ姿のリンがとてもきれいに見えた。


結局リンはユウが東京都の地方公務員を目指しているのに合わせて、一緒に試験を受けることになった。6月の試験までは勉強に専念し、合格できれば就職まではアルバイトを探すつもりである。それまではユウも一緒に勉強するのだろうが、揃って合格したとしても東京都は途轍もなく巨大な組織だ。同じ職場で働けることはまずないだろう。どのみち、ユウとリンはこれまでのようにはいられなくなる。


卒業式の後は、『ワンスモア』の卒業パーティーである。部室に全員が集まった。


マナとヒワは自分たちはあまり熱心な部員ではなかったからと言って挨拶を辞退したので、リンも含めて花束と記念品の贈呈となった。マナとヒワに静里と美宇奈が花束と記念品の小箱を渡す。記念品はスパーサイクルの真鍮の小さいベルでメイドインアメリカだ。マナとヒワは小躍りして喜んでいる。リンは20才の誕生日にユウからプレゼントとしてすでにもらっていたので、リンに用意されたのは、自転車乗りがアーレンキーというヘックスのL字の棒レンチを曲げて作ったREW10 WORKSのキーホルダーだった。


ユウが花束と記念品を渡そうとして


「卒業おめでとうございます。」と言おうとした時、ユウの胸の奥から込み上げて来るものがあった。楽しかったリンとの3年間の思い出。リンがいてくれたから今の自分がある。


「卒業、、、しちゃやだ。」


ユウが泣き始めた。


「お願い、卒業しないで。何でも言う事を聞きます。一緒にお風呂に入ります。ビキニだって着ます。だから、私を置いて行かないで。」


ユウはリンにすがりついて、わんわんと泣いた。周りの部員は呆然とユウを見ている。


リンは優しくユウを抱き寄せて、頭を撫でた。


「バカね、私は一生ユウから卒業するつもりはないわ。」


リンの目にも涙がにじんでいる。それは、自分がユウにとってかけがえのない人間だと確認できた喜びの涙。


でも、ユウは忘れている。


新しい自転車を買った、あの時、スチームローラーを選んだのは、自分であることを。スチームローラーがリンを、『ワンスモア』の仲間を呼んだ。


ユウは、自分で変わることを選んだ。

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