第85話 静里と美宇奈、試乗する
リンとハルはムッとした表情を浮かべた。カナは痛い所を突かれて、たははと笑う。
ユウは少し眉毛を動かしただけだった。
静里は慌てて美宇奈の口を押さえた。
「すみません、美宇奈は思ったことがすぐ口に出ちゃうんです。」
それって、フォローになってないよ。 リンたちは心の中で突っ込んだ。
ユウが静かに口を開いた。
「うちは、ポタリング部ではなくて、お気に入りの自転車に乗って楽しく遊びましょうというサークルです。自転車はシティサイクルでもクロスバイクでもなんでもいいです。それがお気に入りなら、ね。」
「確かに私たちは学生の身としては高価な自転車に乗っています。でも、私たちの自転車にそれだけの価値がないと思われるのは、不本意です。実際に乗って確かめてもらいたいので、明日また来てください。」
静里と美宇奈は帰り道並んで歩いていた。
「も〜、美宇奈。先輩たちを怒らせちゃったじゃない。」
「いい自転車なのは分かるよ。でも、そんなのパパとママに買ってくれなんて言えないじゃない。これから4年間、大学の費用が二人分もかかるのに。」
「でも私は、あのサークルに入りたいんだけどな。」
「私もよ、だから何とか折り合いの付く自転車を見つけたい。」
翌日、ユウのスチームローラーとヒワの変速有りのクロスチェック、ハルのシングルスピードのクロスチェック、カナのリーベンデール、五色のロングホールトラッカーと5台の自転車が揃った。
リンは自分のマシンは用意しなかった。もともとリンは自分の自転車に他人が触るのを嫌がるタイプで、気軽に乗らせてもらえるのはユウだけである。今回はユウのスチームローラーがあるので、自分のマシンは必要ないと判断したようだ。
静里と美宇奈は、5台を順番に乗らせてもらった。なるほど、どの自転車もシティサイクルに比べると軽くて、滑らかな乗り心地である。
「私は日生先輩の自転車と同じタイプの自転車がいいですね。」
静里はカナのリーベンデールに乗って言った。カナのリーベンデールのフレームはシティサイクルと同じ形状で跨ぎ易いし、スカートでも乗れるので買い物や通学にも使い勝手がいい。だが、カナのリーベンデールは30万円以上かかったと聞いて、静里は仰天した。自分の貯金と親から借りて20万円位なら用意できる算段だったが、とても足りない。ただカナのリーベンデールはかなりいい部品を入れているので、そこを見直せばもうちょっと安くできるんじゃないか、ということで次の日曜日に一緒に自転車屋に行ってみることになった。
美宇奈は渋い顔だった。乗り比べると違いは分かる。静里と美宇奈が『ワンスモア』の体験ポタリングに乗って行ったシティサイクルとは雲泥の差であった。それにメーカー完成車でほぼノーマルのヒワのクロスチェックとアメリカンハイエンドパーツで組まれたハルのクロスチェックでも走りが全然違う。シングルスピードのハルのクロスチェックの方が速く走れるような気がする程だった。だが、ヒワのクロスチェックで15万円位、ハルのクロスチェックは40万円以上かかったそうだ。とてもそんなお金は出せない。
インターネットで調べたところ、台湾の大手メーカーのクロスバイクなら5万円位から、10万円も出せばけっこういいモデルが買える。それじゃダメなのかな? と悩む美宇奈であった。
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