第84話 静里と美宇奈

体験ポタリングの後、ユウをはじめ、『ワンスモア』のメンバーは疲労でぐったりしていた。それでも、ユウ達はイベントをやり遂げた満足感があった。


入部希望者が殺到したら困るな、などとユウ達は甘いことを考えていた。が、全然、入部希望者はやって来なかった。運営がちゃんとしてないと思われたのか、自転車で近所を走るだけならサークルに入るまでもないと思われたのか、企画の発案者であるユウは少し落ち込んでいた。


それでも数日後、入部希望者が二人現れた。


うん? その時部室にいたユウとリン、ハルとカナは二人を見較べた。


その二人のうち、一人は肩までかかるストレートの黒髪で上品なブラウスに長めのスカートをはいていた。もう一人は同じ位の長さの黒髪をツインテールにしていて、スウェットパーカーにデニムのハーフパンツをはいている。


だが、色白で細面な顔付きや目鼻立ち、160センチ位の背丈、スレンダーな体型は全く同じだった。


二人は、石戸静里いしど しずり美宇奈みうなと名乗った。スカートを履いている方が静里、髪をツインテールにしているのが美宇奈のようである。


「えーっと、お二人は、、、」


ユウが遠慮がちに尋ねる。


「一卵性の双子です。」静里の方が、静かに答えた。


「先日の体験ポタリングに参加させていただいて、自転車で近所を走るだけでこんなに楽しいものなのかと思いました。きっと先輩のみなさんは、もっと自転車の楽しみ方を知っておられると思うので、私たちも是非その楽しみ方を知りたいのです。」


百点満点じゃん、リンやハルはうむうむと満足気に頷いていた。


「せっかくなので、自転車を新しく購入したいと考えてまして、先輩のみなさんは、どんな自転車に乗っていらっしゃるんですか?」


「特に指定はないですけど、サーリーというメーカーの自転車が多いかな。値段は大体15万円くらいからで。」


その時、『ワンスモア』のメンバーにとって一番言われたくない言葉が炸裂した。




「自転車に15万なんて、バカじゃないの。」

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