第83話 ユウ、企画する

ユウは『ワンスモア』新入部員獲得のため体験ポタリングを企画して、入学式の後のオリエンテーションで募集をかけた。今後も『ワンスモア』を存続させていくには、部員を補充していかなければならない。


体験ポタリングと言っても、普段のポタリングを初心者向けに距離を短く、なるべく坂道を少なくなるようにして、ランチを一緒に食べましょうというだけのイベントである。


ユウはリンに、3人くらい来てくれたらいいですね。と気楽なことを言っていた。それでも、念のため集合時間の30分前に集合場所である大学の駐輪場に行った。すでに数人が来ている。


「えーっと、すみません。ひょっとして体験ポタリングの参加者の方ですか?」


ユウは尋ねた。


「はい、今日はよろしくお願いします。」


新入生たちが元気に答える。


「おはようございまーす。」


新入生が続々とやって来る。集合時間になると、30人以上が集まった。予想外の展開に戸惑いながら、ユウは挨拶と今日のポタリングの説明をした。


「一列で走ってください。横に並んで走らないこと。」

「歩行者にベルを鳴らさないでください。追い抜きたい時は、声をかけて。」

「信号を守ってください。信号で前の自転車と離れても、迷子にはなりませんから大丈夫です。」

「スマホを見ながら自転車に乗るのは論外です。見つけたら、その場で帰ってもらいます。」


スポーツサイクルに乗る者にとっては当たり前の心がけであるが、普通に自転車に乗っている人間には、あまり守られていないことでもある。ユウはあらかじめ注意する必要があると思っていた。


新入生の自転車を見ると、ほとんどがシティサイクルで、通学用に買ったばかりと思われる自転車ともともと家にあったような古い自転車が半々くらいだった。


一行はカナを先頭に、走り出した。川沿いの遊歩道に出て、ゆっくりと流す。さすが名門女子大の学生だけあって、みんな言われたことはちゃんと守れていた。


総勢40人近い自転車の若い女性の集団に、すれ違う人たちはみんなびっくりして振り返る。


最初の休憩地である、新座の平林寺でリンがユウをつかまえた。


「お昼はどうする?」


そうだった。こんな大人数になると思ってなかったから、いつものカフェに行くつもりだった。この人数で予約無しで入れる店などない。


どうしよう。ユウはパニックになった。その時、今日も参加していた五色が口を挟んだ。


「パンを買って、六仙公園の芝生でピクニックにしない?」


その手があったか! 一軒のパン屋で30人分のパンは買えないので、マナとヒワ、五色が手分けして美味しいパン屋に買い出しに行って、公園に先回りすることになった。


ユウとリン、ハルとカナは時間を稼ぐため、ゆっくりと流して走った。


ユウたちが公園に着くと、すでに五色たちは到着していて準備をしていた。カセットコンロでお湯を沸かし、パンと紙コップの紅茶を配る。


新入生は小さなグループになり、思い思いの場所に座っておしゃべりしながらパンを食べている。


その様子が楽しそうなので、ほっとしたユウたちであった。ユウたちもパンを食べながら、ようやく休憩できたのであった。



無事、体験ポタリングを終わり、大学の駐輪場で解散となった。参加した一年生たちはみんな礼を言って帰って行った。


「疲れたわ。」「疲れましたね。」


ユウたちは部室で紅茶を入れて、飲んだ。どっと疲労が込み上げてきて『ワンスモア』のメンバーは、部室で心地よい眠りについたのであった。

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