第82話 ユウ、お願いする

ユウが『ワンスモア』の部長になり、部長を補佐する副部長を決める必要ができた。ユウはハルに打診したが、意外なことにハルは辞退した。


ハル曰く、自分はリンの家に住まわせてもらっていて、その代わりに家事などリンの世話をしている。副部長くらいならできないことはないが、来年、部長にという話となると両立は難しい。もし、来年カナを部長にする考えがあるのであれば、カナに副部長をやってもらえないだろうか。


リンがこのことを知れば、リンの世話はどうでもいいというだろうが、ハルにとっては『ワンスモア』の活動よりリンの世話の方が大事なので、そういう訳には行かない。だからリンには内緒にしてほしいということだった。


うーん。ユウはちょっと考え込んだ。ハルとカナとなら、ハルの方が適性があると思う。物怖じせず、誰とでも友達になれて自転車のメカなどにも詳しい。だが、本人がやりたくないというなら仕方ない。


ユウは大学の近くにあるカフェにカナを呼び出して、二人で話すことにした。カナにも断られたら、どうしようと思いつつ、率直に副部長になってほしいと頼む。



「喜んでお受けします。」


カナは目に涙を浮かべた。


「ユウ先輩はハルちゃんの方を評価していると思ってました。そう言っていただけてとても嬉しいです。微力ですが頑張ります。」


気、気まずい。ユウは思った。実際はハルに断られたから順番で頼んだだけなのだが、カナは自分の方が選ばれたと思ってしまっている。



「そんなことはないわ。カナちゃんもその力量があると思う。よろしくね。」


ユウは、ハルに先に打診したことを口止めしなければと思いつつ、カナと握手した。そして、多少の後ろめたさから、カフェの代金をおごった。


翌日、『ワンスモア』のメンバーには、カナが副部長になることが発表された。


地位が人を作る、という言葉がある。少し皮肉屋なところがあったカナは、最初のうちは意気込みが空回りすることもあったが、ユウやハルのバックアップを受けて副部長の仕事に取り組むうちに、明るく前向きな性格になっていった。


1年後、誰が部長になるのか、未来のことはわからない。だが、『ワンスモア』の部長は代々、名部長と言われるようになるのである。

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