第72話 清空寮、雨漏りする

夏休みも終わりの土曜日の晩、ユウはリンの家に泊まりに来ていて二人でソファに座ってテレビを見ていた。その時、けっこう大きな地震があった。


「きゃああ!」


ユウが叫んでリンに抱きついた。どうやらユウは地震が苦手らしい。リンはそんなユウを優しく抱き止めた。


「リン、リン、、」


「放してください。」


リンははっと我に帰った。ユウの柔らかな感触を楽しんでいるうちに、とっくに地震は収まったらしい。


地震が苦手なのを見られたユウは恥ずかしいのか、真っ赤な顔をしていた。リンは今夜は最高だわと思ったのであった。


次の日曜日の朝、二人が起きたら雨が降っていた。雨を眺めながらカフェオレを飲んでいると珍しく五色から電話があった。


「もしもし、ユウさんですか? 清空寮が雨漏りしているんです。予定がなかったら荷物を移動させるのを手伝ってもらえませんか?」


ユウとリンは、レインウェアを着てスチームローラーで大学に向かう。


二人が着くと、五色が飛び出して来た。


「ありがとうございます。昨日の地震で寮の屋根が壊れたみたいで。」


夏休みということもあって、寮生は五色ともう一人しか残っていないそうで、二階の部屋を全て開け、雨水が直接当たらないように家具等を動かして、洗面器やバケツで受ける。雨漏りのひどい部屋から順番に荷物を運び出して、1階の集会室に移した。お昼も食べずに作業を続けて8人の寮生の荷物を避難させるのに夕方までかかった。


汗まみれになったユウとリンは寮のお風呂に入った後、五色はお礼だと言ってトンカツの夕食を振る舞ってくれた。


「これから、どうするの?」


「明日、学生課に報告して、対応を依頼します。」




夏休みももう終わりに近かったので、事情を聞いた寮生は戻って来た。学生課が業者を入れて点検を行い、その説明会があったらしい。


その翌日、『ワンスモア』の部室にハルが憮然とした顔でやって来た。


「清空寮は取り壊しになるそうです。危ないので、すぐ立ち退くようにと言われたです。」





清空寮で寮生に行われた説明会では、若い女性の職員が一人でやって来て、清空寮は取り壊しが決まったので、すぐに引っ越せ、引っ越し代として一人3万円出してやるみたいなことを高飛車に言ったそうだ。


これが変人揃いといわれる寮生には、カチンと来たらしい。


「寮には経済的な事情があって住んでいる学生が多い。」

「保証人が見つからない学生もいる。」

「4年生は卒業後、また転居する可能性もある。短期間で二度も引っ越しさせられるのか?」

「寮の契約書には立退きの規定はない、大学が何を言っても自由だがこちらが従う義務もない。」

「大学から誠意ある対応がなければ、法的に争う。」


生意気な女性職員は気の毒にも吊るし上げられ、泣きながら、上司に皆さんの意見を伝えますと言うまで責め立てられた後、寮から追い返された。


が、それで寮生の気持ちが晴れた訳ではなかった。8人の寮生は重苦しい気分で集会室に布団を並べて寝たのだった。


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