第67話 買い出し自転車

その日の授業の後、五色はハルに連れられて『ワンスモア』の部室にやって来た。部室には、ユウとリン、ミトが揃っていて、五色の話を聞いてくれた。


「初めまして、小日向五色こひなたごしきです。清空寮に住んでます。ハルがお世話になっております。」


ハルのお母さんみたいな挨拶である。そんな五色の自転車に関する相談とは?


寮生が食べるお米や味噌、野菜などは結構な量なので、五色は食材の買い出しに自転車を使っている。前カゴに10キロの米を積んだりするのだが、自転車が壊れてしまう。今の自転車は3台目で、最初の自転車は寮の卒業生が置いていったシティサイクルだったが、米を積んでいる時に歩道の段差を越えたらフロントフォークが折れた。2台目は、リサイクルショップで買った中古の安物だったが、やはりしばらく使っていたら今度はフレームが折れた。幸い怪我こそなかったが、3台目も時間の問題のような気がする。


それに前カゴに重い物を入れると、ハンドルが取られてふらふらする。

危ないので、ちゃんと荷物を積めて、安心して走れる自転車がほしいということだった。


ミトがにこにこしながら


「予算はいくら?」と聞く。


五色は、7万円と答えた。シティサイクルなら破格の予算だが、荷物をたくさん積んでも大丈夫な本格的な自転車を買うには心許ない金額である。


五色は中古でもいいと微笑んだ。


五色が食事の支度に寮に戻った後、リンがハルに指示をした。


「ネットのオークションかフリーマーケットでベース車両を探すしかない。取りに行ける距離で5万円以下の太いタイヤの自転車を探して。」


「5万円なんですか?」


「小日向さんの希望通りにするには、部品を入れ替える必要があるだろうし、消耗品も交換したいから、その費用は残しておかないと。」


次の日、部室に来たハルは目がしょぼしょぼしていた。どうやら寝不足らしい。ハルがいくつかピックアップした自転車を眺めていたリンの目が止まった。


「これがいい。」


「私もその自転車、雰囲気がいいと思ったですよ。」


「ちょっと、ボロくない?」


「手間はかかりそうね。リンさん、よろしく。」ミトが笑った。


ハルはその自転車を落札して、土曜日の午後にユウの車で引き取りに行った。


その自転車は確かにボロかった。エメラルドグリーンのフレームは傷だらけで汚れている。だが前後に丈夫なキャリアが付き、ホイールベースの長い車体は安定感があり、重い荷物を積んでもびくともしない。


昔、ランドナーと言われた旅行用自転車やキャンピング車を現代の規格にアップデートした自転車。




サーリー ロングホールトラッカー。

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