第63話 電動アシスト自転車

その日もユウとリン、ミトは部室で、おしゃべりをしていた。


ドアをノックする音がして、ユウが「どうぞ。」と言うと、ドアが開いて1人の女性が立っていた。髪の長い清楚な大人しそうな子で、初々しい感じから一年生のようである。ユウが自転車の修理かな?と思ったところ、


「あのー、ハルちゃんの紹介でサークルのお話を伺いたいと思って来たんですが、、、」


ミトが入部希望者かと色めきだった。ユウも入部希望ならおもてなししなければと、とっておきの紅茶を入れる。


その一年生は、紅茶を美味しそうにすすりながら名乗った。


「私、今年入学した、日生香菜ひなせかなと言います。こちらで自転車散歩をやっているとハルちゃんから聞いて興味がありまして。」


ミトはポタリング希望かとちょっとがっかりしたようだが、すぐに切り替えたようだった。まずは軽くポタリングから始めさせて、そのうちロードバイクでのサイクリングに引きずり込めばいい。


「今、乗っている自転車はシティサイクルですか?」ユウが尋ねる。


香菜は答えた。「ブリジストンの電動アシスト自転車です。」


その瞬間、ミトとリンが固まった。何か言いたそうな目でユウを見る。ユウは


「ハルの奴、逃げやがったな。」と心の中で毒付いた。何でハルも一緒に来ないのか、不思議に思っていたのだが、おそらくミトとリンの反応を予想していたに違いない。


ユウは目でミトとリンに何も言わないように制しつつ、にこやかに言った。


「もちろん、大丈夫ですよ。さっそくですけど、次の日曜日にポタリングに行きませんか? 入部するかどうかは、その後でいいですから。」


紅茶の礼と楽しみにしています、と言って、香菜は部室から出て行った。


リンが「いいの?」と聞いた。ミトは真顔だから、たぶん気が乗らないのだろう。だが、ユウはできるなら彼女に部員になってほしかった。きっと、これからもこういう人が現れるはずだ。自分が試されているような気がするユウだった。


少しして、ハルが素知らぬ顔をして部室にやって来た。ユウは両手の拳骨で、ハルのこめかみを挟んでグリグリと締めあげた。


「痛い、痛い。ユウ先輩、一体何ですか?」


「自分の胸に聞いてみなさい♡」


ユウはグリグリしながら、にっこりと微笑んだのであった。

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