第60話 ハルのシングルスピード
日曜日、ユウとリン、ハルはワゴンRで世田谷区の自転車屋に向かっていた。
ハルの話によると、清空寮は大学の敷地の一番奥にある。大学の出入口は防犯上の問題などもあって、正門しかない。ちょっとした買い物でも正門を経由すると、結構な距離となり歩くと大変なので、自転車が欲しくなったと言う。
また、ハルは長野県小諸市の出身で、この辺りのことは全く知らない。せっかくだから、自転車であちこち行ってみたいということだった。
リンが何であんなボロい寮に入ったのか聞くと、
「親が寮に入らないなら、上京を認めないと言ったですよ。」屈託なく答えていた。
「でも、寮の先輩は皆親切なので楽しく過ごせてます。」
ユウは、それはハルのコミニュケーション力じゃないかな? と思った。
自転車屋に着くと、リンの馴染みの店員は先約があるということで、店長が応対してくれた。
ハルがスチームローラーに乗りたいと聞いて、
スチームローラーのように固定ギヤで乗ることを想定している自転車は、カーブで自転車が斜めに傾いた時にペダルが地面に当たらないようにBB(ボトムブラケット)の位置が高く設計されている。そのため、地面に足が付きづらく、スチームローラーでは身長が160cmくらいはないと乗れないということだった。そのため、ロードバイクのフレームをベースにシングルスピードを作ることになる。スチームローラーが最初の希望だったのなら、同じサーリーのクロスチェックはどうでしょうかと店長は聞いた。小さいサイズのフレームもありますし、キレイにまとまると思います。
ハルは店にあるクロスチェックのフレームを見て、では、これでお願いしますと言った。ユウとリンは、マナとヒワの自転車もクロスチェックだったなと思ったが、別にいいかと黙っていた。
店長が予算はどれくらいでお考えですか? と尋ねた。
「リン先輩のスチームローラーが素敵なんで、同じような感じでお願いします。」
それだと、30万円から場合によっては、50万円位かかってしまいますが、よろしいですか?と聞かれて、ハルはそれでけっこうです、と答えた。
「後でパーツを入れ替えるのは無駄なので、最初から何の不満もないようにしてください。」
同時に、ハルが清空寮に入っているのは経済的な理由でないことがわかった。
店長は、ハルの言葉を聞いて火が付いたようだった。パーツについて細かい違いなどを説明し始める。ハルが店長のアドバイスを聞きながら、パーツを選ぶのにけっこう時間がかかった。全てのパーツが決まって、クレジットカードで前金を払う頃には、すっかり夜になっていた。
二週間後、ハルのシングルスピードのクロスチェックが出来上がった。色は黒で、リンのスチームローラーをクロスチェックに置き換えたような素敵かつ高価な自転車である。
後日、ハルのクロスチェックを見たマナとヒワは、
「一年生のくせに生意気。」と苦笑しながら言ったのだった。
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