第58話 ハル、来たる

4月になった。


ユウは二年生、リンは三年生になった。新入生が来て華やか、かつ慌ただしい雰囲気もようやく落ち着いて、ユウとリンはいつものベンチで舞い散る桜の花を見ていた。


その時、2人の前に1人の少女が現れた。小柄ですばしっこそうな女の子。その子がユウとリンに向かって言った。


「あのっ、私、今年入学した、柏木かしわぎはると言います。私も先輩たちみたいな自転車に乗ってみたいんです。教えてくれませんか?」


「先輩たちの自転車、とてもカッコよくてステキだって学内で有名なんです。」


実のところ、ハルは、ユウとリンが色違いのお揃いの自転車に乗っていて、いつもベンチで一緒にいる仲良しカップルとして、大学では有名だというのは黙っていた。


そんなことは全く知らないユウは、


「じゃあ、ちょっと落ち着ける所でゆっくり話しませんか?」と言って、


ハルを『ワンスモア』の部室に連れて行った。部室には、ミトもいて、ハルはあっさり『ワンスモア』の部員となったのだった。


ハルをユウのスチームローラーにちょっと試乗させてみたが、何とか乗れるものの足が地面に全く届かなかった。リンによると自分たちのスチームローラーが一番小さいサイズなので、スチームローラーは無理だろうとのことだった。


餅は餅屋ということで、さっそく次の日曜日にハルを自転車屋に連れて行くことになった。今日はここまでとなって、ユウはハルがどこに住んでいるのか? 尋ねた。


「私、清空寮に入っているんです。」


「え、あのオンボロの?」リンが驚いたように言った。

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