第57話 ミトとシティサイクル

ミトはサビだらけの自転車を前にして、おもむろに言った。


「リンさん、直してみる?」


「そんな汚い自転車に触れるか! 手が汚れるだけじゃなく、心まで汚れるわ!」


リンは拒絶した。


リンは雨でも雪でもスチームローラーに乗っているが、スチームローラーはいつもきれいに手入れされている。そういうところは几帳面なリンだった。


「そうよねえ。」


仕方なさそうに、ミトはとりあえずエアコンプレッサーでパンクしたタイヤに空気を入れてみる。耳をすますと微かにシューという音が聞こえて、確かに空気が漏れているようだった。タイヤを回しながら、音の漏れている位置を確認すると、どうも空気を入れるバルブのところらしい。


バルブのナットが緩んでないか、確認するとバルブのナットを外して中から虫ゴムという小さな部品を取り出す。ミトは虫ゴムをじっと見ると、部品箱から新しい虫ゴムを出して取り替えた。もう一度、タイヤに空気を入れてみるが、今度は空気漏れの音はしない。


「ちょっと置いてみて、空気が漏れてなければオッケーね。」


「ラッキー。」


ミトはえへへと笑った。ミトは前輪にも空気を入れて、各部に注油してから、雑巾で自転車を拭く。それで、少しはましな見た目になった。


自転車の持ち主の彼女は、修理が終わった自転車を代金を払って喜んで引き取って行った。


「安物だけど、卒業まで頑張ってもらわないと。」


たぶん、この自転車はそのあたりまでが限界だろう。ミトのロードバイクやユウとリンのスチームローラーは、きっといつまでも乗っていられる。ユウは、そんなことを考えていた。


「大事にすれば安物だって長持ちするよ。大事にできないから、すぐダメになるだけ。」


ユウは、ミトさんも本当に自転車が好きなんだな、と思った。この人が自分たちの部長で良かったと改めて感じたのだった。

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