第54話 みんなで自転車屋に行く

サーリーのクロスチェックは、シクロクロスというジャンルの自転車である。シクロクロスというのは、おおざっぱに言うと太めのタイヤを入れたロードバイクのような自転車で野山を走ったり、時には選手が自転車を担いだりして走るというハードな競技である。


もっとも、クロスチェックのフレームはスチームローラーと同じでクロモリスチールで作られていて重いので、競技に使う選手はまずいない。だから実際のところはクロスバイクみたいに色々な用途に使える自転車といったところであろう。


真名と日和は、ユウとリンのスチームローラーを見た時、自分たちが乗りたい自転車はこれだと思ったらしい。ミトとサイクリングに行きたいから、スチームローラーに似た感じで変速のある自転車を探したところ、同じサーリーのクロスチェックに行き当たった。


サーリーが販売しているクロスチェックの完成車は、フラットハンドルでリヤキャリアが付いている。当然、変速もある。真名と日和にとっては、理想の自転車だった。


それで、クロスチェックを買いたいのだが、取り扱っている店を何軒も回る時間はないので、ユウやリンが行っている店を紹介してほしいというのが、2人の相談だった。


「じゃあ、一緒に行きましょう。」ユウは言った。リンもいいね、と頷いた。




次の週の日曜日は『ワンスモア』のサイクリングの日だったが、雨で中止となった。ちょうどいいタイミングなので、ユウの運転するワゴンRで、4人はユウとリンがよくお世話になっている世田谷区の自転車屋に向かった。


ユウもその自転車屋に行くのが楽しみだった。その自転車屋は色々な自転車が置いてあるばかりか、アメリカンハイエンドパーツやウェアやバッグなど色々な商品があって、いくら見てても飽きないし、財布の紐がつい緩んでしまうのだった。


ユウは店に着くと、真名と日和はそっちのけで店の中を探検し始めた。リンはアポイントを取っていたらしく、馴染みの店員を捕まえて、真名と日和の用件を話している。


ユウがいくつかの品を見繕ってレジに行く頃には、真名と日和の話も粗方終わってクロスチェックの注文も済んだようだった。



そして、2週間後、真名と日和のクロスチェックが納車された。真名はメタリックオレンジ、日和はブルーグレーのクロスチェックである。


2人のクロスチェックを見て、ミトが喜んだのは言うまでもない。


真名と日和は一年間、ミトとサイクリングやポタリングを存分に楽しむことになる。そして、ロードバイク一辺倒だったミトにも変化が生じることになるのだが、それはまた別のお話である。

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