第53話 ユウ、相談される

ユウに『ワンスモア』の部員である、角目真名つのめまな穂刈田日和ほかりだひわから連絡があった。ユウとリンに相談したいことがあると言う。


ミトに内緒ということなので、リンと2人で大学の近くである2人のアパートにお邪魔することにした。


真名と日和は同じアパートの隣同士の部屋に住んでいた。2人は同郷で同じ高校の出なので、何かと助け合っているそうだ。


2人は、日和の方の部屋に上がった。真名の部屋より片付いているかららしい。日和がインスタントコーヒーを入れてくれる。


真名が口火を切った。


「たまったのよ。」


「「はい?」」


「お金がたまったの!」


「「はあ?」」


「ずっとサークルの自転車を借りていましたが、とうとう自分たちの自転車を買えるだけのお金がたまったんです。」


日和が落ち着いて言った。


「ミトさんには一年生の頃から、ずっとお世話になっていて、ミトさんも四年生になってしまうから最後の1年はなるべく一緒に走りたい。」


真名がまくしたてる。


よかったですね。ユウは言った。ミトも喜ぶだろう。


だが、2人が貯めたお金はロードバイクを買うには、少々寂しい金額だった。買えないことはないが、初心者向けのエントリーグレードのロードバイクになってしまう。それなら『ワンスモア』のロードバイクを借りて乗っているのと変わらなかった。


それに、真名と日和はロードバイクに気乗りがしなかった。ポジションは前傾がきついし、手の小さな女性には握り辛いドロップハンドルや足とペダルが固定されるビンディングペダル、ぴちぴちのサイクルウェアにも馴染めなかった。それなりに高額な買い物なので、通学や買い物、ポタリングにも使いたい。


それで、ミトに内緒でユウとリンに相談したようだった。何かお目当てがあるんですか?とユウが尋ねると、日和がノートパソコンを開いて見せてくれた。


それは、ユウやリンのスチームローラーと同じサーリーのクロスチェックという自転車だった。

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