第51話 ユウ、副部長になる
三月に入ったばかりのある日、ユウはミトから呼び出された。リンと一緒に『ワンスモア』の部室に向かう。リンはどうせろくでもないことに決まっていると身構えていた。
ミトは部室のテーブルの前にいつものようににこやかに座っていた。
ユウとリンがテーブルにつくと、
「あのね、今日はユウさんにお願いがあるの♡」ミトがぶりっ子をする。
「気持ち悪っ!」リンが呟く。ミトは構わず続けた。
「はい、か、イエスで答えてくれないかしら。」
「同じじゃないの!」リンは大声を出した。ユウがリンを抑える。
「いったい、何ですか?」
「四月からユウさんに『ワンスモア』の副部長になってほしいの。」
「ユウに面倒なことを押し付けるんじゃない!」リンが立ち上がった。ミトに掴みかからんばかりの勢いである。
「いいですよ。」
ユウはあっさり言った。取っ組み合いになりそうだったリンとミトが、ユウを見る。
「で、部長は誰がなるんですか?」
私が続ける、とミトは言った。マナちゃんとヒワちゃんはアルバイトに追われているし、リンさんはやる気ないでしょう。
「ユウが副部長なら、私が部長をやってあげてもいいわよ♡」リンが猫撫で声を出す。
ミトがリンをじっと見た。
「やっぱ、いいわ。部長は私が続ける。」
「なんなのよ!」
ミトは立ち上がって、戸棚からとっておきの紅茶葉を出して入れてくれた。3人で紅茶を飲みながら、
「今日は引き受けてもらえるまで帰すつもりなかったから、早く片付いてよかったわ♡」
何か黒いこと言ってる、とユウは思った。副部長といっても、ミトが就職活動などで都合が悪い時に、代わりにサークルの用事を行うというだけで、そんなに大変なことはなさそうだった。
帰り際、ユウはミトから部室の合い鍵をもらった。部長・副部長の特権だという。
リンと並んで、駐輪場まで歩いた。
「いいの?」リンが尋ねる。
「ミトさんも四年生になって忙しくなるでしょうから、私が少しでも手伝ってあげられれば。」ユウは返した。
リンは、ユウの成長を見た。なんとなく嬉しいような寂しいような気持ちがする。
2人の歩いて行く後姿を見ながら、ミトは呟いた。
「次の部長は、ユウさんだからね♡」
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