第77話 ユウとリン、2年目のクリスマス

もうすぐクリスマス。


今年は、24日がリンの家でのクリスマスパーティー。25日が『ワンスモア』のクリスマスパーティーとなった。


24日の夜、ハルは遠慮したのか、明日の『ワンスモア』のパーティーの準備で、五色のマンションに手伝いに行き、そのままカナと泊めてもらうと言って留守だった。例によって、ユウの母が作ってくれた料理を食べながら、ユウとリンはおしゃべりを楽しんだ。最近は、ふだんの夕食の時でもお酒を飲んでいるリンが今夜は珍しく飲んでいない。


クリスマスプレゼントの交換になって、リンが大きな包みを出してきた。開けなくても中身は分かる。リンが組んだスチームローラーのフロントホイール。ユウは3月9日の19歳の誕生日プレゼントとして、スチームローラーのリヤホイールをもらっている。実はリンはその時にすでにフロントホイールも作っていたのだが、アメリカの高級部品メーカーのフィルウッドのハブとスポーク、ニップルそしてヴェロシティーのリムで組んだホイールは、前後で10万円近くかかってしまい、さすがに1度に渡してしまえば、ユウが気兼ねするだろうと2回に分けたのである。次に渡す口実のある日がクリスマスだったため、10ヵ月近く空いてしまった。


ホイールを受け取ったユウの極上の笑顔を見て、リンはたまらなく幸せを感じた。苦労してホイールを組んだ甲斐があったというものだ。


ユウがリンにプレゼントを渡す。去年は南部鉄器の鉄瓶をプレゼントしたユウだったが、後日、それを聞いたミトにやんわりと叱られた。ミト曰く、


「リンさんはユウさんが大好きなんだから、もっと愛情が伝わるようなプレゼントじゃないとダメよ。」


なら何が良いのか、ユウは迷ったが結局スチームローラーに使うものがいいだろうと考えた。と言っても、リンのマシンはどれもアメリカンハイエンドパーツが使われていて、特に交換するべきところはない。そんな中で、ユウが選んだのは、セラアナトミカのレザーサドルであった。セラアナトミカのサドルは座面にスリット(縦穴)が開けられていて、ハンモックのように変形して座り心地がいい。使われているレザーは防水加工がされていて、雨でも雪でもスチームローラーに乗っているリンには、丁度良いように思えた。


リンは目を輝かせて、ありがとうと言う。ユウはホッとした。


リンはユウのスチームローラーのフロントホイールと自分のマシンのサドルを交換して言った。


「じゃあ、ちょっと散歩しましょう。」


こんな寒い夜にどこへとユウは思ったが、スチームローラーのライトを付けて走り出す。


10分程走ると、一軒の民家の前に停まった。その家は、凝ったクリスマスイルミネーションをしていた。家中にイルミネーションが飾られ、ベランダをサンタの人形がよじ登っている。


「わあ!」


ユウは思わず歓声を上げた。リン曰く、この近くにキリスト教系のインターナショナルスクールがあって、その関係者が多く居住している。この時期になると、凝ったクリスマスイルミネーションをする家が何軒もあるという。


二人は4軒ほど回った。どの家も趣向を凝らしたロマンチックなイルミネーションだった。体がすっかり冷え切った頃、リンの家に戻る。お風呂に入った後、二人は幸せな気持ちでリンのベッドで抱き合って眠った。


25日は、パーティーの前に軽くポタリングをする。ユウ、リン、ミトはもちろん、マナとヒワ、一年生のハルとカナ、五色も参加する。ポタリングでお腹もすいたところで、パーティーの会場である五色のマンションに向かう。食堂のテーブルにはクロスを掛かっていて、五色が作ったチキンとおつまみ、酒ビンがずらりと並んでいる。


「メリークリスマス!、かんぱーい。」みんなでグラスを鳴らした。


楽しげに談笑していると、まだ帰省せずにいたかつての清空寮の寮生2人程が私たちも入れてくれない?と言って、お酒を持ってやって来た。ミトが招き入れて盛り上がる。


リンとミトはつぶれて、寝室に敷かれた布団に寝かされた。マナとヒワも帰るのが面倒と言って布団で雑魚寝する。ハルとカナは未成年でお酒は飲んでいないはずだが、疲れてしまったのか寝込んでしまい、やはり布団行きとなった。寮生も自室に戻って、食堂には、ユウと五色が残った。五色が入れてくれたコーヒーを二人で飲む。


「今日はありがとうございました。とても美味しかったです。」


「よかったら、また来て。」


二人は握手して、やはり寝室で雑魚寝したのであった。


翌朝、リンとミト、マナとヒワは二日酔いで、ハルとカナもなぜか体調が悪いようだった。ここで解散となって、ユウはリンの家まで一緒に行った。リンとハルは起きてられないと言って、寝てしまった。


昨日のパーティーは楽しかった。1年前には、サークルのパーティーに出ることなど予想もできなかった。それもリンとスチームローラーのおかげ。


リンの寝顔を見ながら、ユウは幸せを感じたのだった。

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