第26話 リン、雨でも乗りたい
関東は、本格的に梅雨になった。
自転車乗りには、憂鬱な時期である。
ユウは大学まで自転車だと20分以上かかる上に、帆布のカバンで教科書やノートを濡らさずに運ぶのが大変なので、仕方なく電車とバスで通学している。
リンは、大学まで10分足らずなので、雨でもお構いなしにスチームローラーで通学していた。教科書などを入れたカバンを更に防水バッグの中に入れている。
ユウが駐輪場をのぞいて見ると、リンのスチームローラーのラックに脱いだカッパがくくりつけられている。それとフレームにドロヨケが付けられていた。金属製のしっかりしたドロヨケである。興味を持ったユウは、授業が終わった後、学生食堂でリンに尋ねてみた。
リンによると、話は昨年にさかのぼる。そもそもリンがスチームローラーを購入したのは、バスでの通学があまりにも不便だったからである。リンの住んでいる公団住宅のそばにバス停はあるが、そこから駅に行くバスに乗って、駅からまた大学まで行くスクールバスに乗らなければならない。大回りなので時間も30分以上かかるし、料金も2路線分かかってしまう。自転車なら10分かからない。
それで、早々にバス通学に見切りをつけて、自転車を買うことにした。最初は、ネットで前にカゴが付いたシティサイクルを探したが、気にいる自転車がなかった。それで色々調べている内に、サーリーのスチームローラーを見つけた。リンの家から大学まではほぼ平坦なので、シングルスピードでも問題はない。
それで、サーリーを取り扱っているショップを、何軒か訪ねてみて一番良さそうなショップで購入した。
通学でスチームローラーに乗り始めると、面白くてスチームローラーであちこち行ってみるようになった。
本題に戻る。
そうこうしているうちに、梅雨になった。
が、リンは雨でもスチームローラーで通学したかった。
雨がそこそこ降っていると、車輪が巻き上げた水が、乗っている人間にかかる。カッパを着ていれば、体は濡れないが、カッパが汚れる。
リンは、スチームローラーにドロヨケを付けようと考えた。簡易なプラスチックのドロヨケもあるが、靴べらみたいな形であまり付けたいとは思わなかった。サーリーのHPを見ると、ドロヨケを付けて、太さが32c(ミリ)までのタイヤを入れることができるとある。リンのスチームローラーのタイヤは、32cなので問題なさそうだった。
それでまたネットで調べると、シムワークスの真鍮製の亀甲模様のドロヨケを見つけて、それをショップで付けてもらった。
ドロヨケを付けて、雨の日の走行はだいぶ楽になった。カッパや防水バッグの汚れも少なくなった。鈍い真鍮の輝きも悪くない。
梅雨が明けて、ドロヨケの必要はあまりなくなったが、もうこのまま付けっ放しでいいかと、リンは考えていた。が、雨の時は感じなかったが、どうも走りが重くなったような気がする。なぜかわからなかったが、ドロヨケがない時は感じなかったことなので、ドロヨケを外してみたら解消した。後で知ったことだが、ドロヨケはけっこう空気抵抗が増えるらしい。以来、リンは雨が続きそうな時だけドロヨケを付けることにした。
「で、私はドロヨケを付けた方がいいのかな。」ユウが尋ねる。
「う〜ん、付けたければ?」リンの答えはユウの参考にならなかった。
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