第24話 リン、ユウの胸で泣く
楽しくおしゃべりしているうちに、ユウは別の件のことを思い出した。カバンからパンフレットを出して、ソファーの前のローテーブルに並べる。
「夏休みに自動車の免許を取ろうと思っているんです。よかったらリン先輩を一緒にどうですか?」
すると、突然リンの顔がこわばった。何か言おうとして唇が動いているが、言葉が出てこない。しばらくして、ようやく振り絞るように言った。
「私は、クルマの運転はできない。」
「私のパパとママは、交通事故で死んだ。だから、私は、私は、、、」
リンは体をかがめて、泣き始めた。ユウはようやくリンの家族の状況が飲み込めた。リンの両親は、比較的最近に交通事故で亡くなっている。
リンの家のリビングには仏壇があって、両親らしき人の写真が飾られている。最近、しかも2人同時に亡くなっているのなら交通事故であった可能性は高い。ユウは、そのことに気付かなかった自分の迂闊さを責めた。
リンは、泣き止まない。ユウは自分がどうすればいいのか分からなかった。とっさにリンの肩を持って、自分の方に体を向けさせる。顔を上げさせて、自分の胸で抱きしめた。
「ごめんなさい、リン。お願い、泣かないで。」ユウの目からも、涙がこぼれた。
そのままの姿勢でどれくらいたっただろうか。
「今日は、もう寝ましょう。」
ユウは、リンを抱えるように二階の寝室に連れて行く。和室の方にユウの布団が敷いてあったが、リンはユウの手を離してくれない。ユウは一緒にリンのベッドに入った。
しばらくすると、リンの手の力が緩んだ。寝息を立てている。ユウはリンの部屋の暗い天井を眺めていた。
ユウにとって、リンはいつも頼れる先輩で、優しいお姉さんだった。いつも、元気で、明るくて、笑顔だった。
心の中には苦しみや悲しみを抱えていたけれど、それをユウに気付かせなかったし、ユウも気付かなかった。
自分がもっと成長して、少しでもリンの支えになれれば、そんなことを考えるとユウは寝つけなかった。
いつのまにか寝てしまっていたらしい。ふと気がつくと、もう朝だった。すでに8時を過ぎている。リンはベッドにいなかった。ユウも着替えて、一階に降りて行く。
リンは、台所で朝食を作っていた。ユウが降りて来たのに気付いて、振り返って言う。
「おはよう、ユウ。座って。」
テーブルに、雑穀米のご飯、味噌汁、玉子焼き、ほうれん草のゴマ和えが並ぶ。2人は黙って、食べ始める。リンが言った。
「昨日は、取り乱しちゃって、ごめんなさい。」慌てて、ユウも返す。
「私のせいで、パーティーを台無しにしちゃいました。すみません。」
「ううん、とても楽しかった。パパとママのことも久しぶりに思い出せたし。」
「でも、、、」
「過去を元に戻すことはできない。私は今と未来を楽しく過ごせるように頑張りたい。」
「だから、これからもよろしくね、ユウ。」
「はいっ。私も頑張ります! 」 ユウは元気よく返した。
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