第13話 ユウ、パンクする

その日、ユウは、いつものようにスチームローラーで、大学に向かっていた。


いきなり、後輪が蛇行を始めて、ユウは慌てて自転車を停めた。後輪を見ると、完全に潰れてパンクしている。


ここから、大学まで自転車を押して歩いても、授業の開始に間に合わない。どうしたものかと思ったが、近くに住むリンは、今日は2コマ目の授業からだったのを思い出して、とりあえず電話してみる。


「・・・おはよ〜、ユウちゃん。」


「リン先輩、朝からすみません。ケヤキ並木のところで、パンクしちゃいまして。」


「・・・すぐ行く。。。」


リンは、まだ寝ていたらしいが、3分としないうちに来てくれた。髪はぼさぼさで服装は、先日雨宿りした時に借りた、くたびれたTシャツとスウェットパンツ姿である。スウェットパンツの裾を膝まで捲くっていた。


「私のマシンに乗って行って。私はここでパンクを直してから、一旦家に帰る。」


リンの言葉に甘えて、ユウはリンのマシンで、大学へ向かった。


授業には、ギリギリ間に合ったが、ユウには、ちょっと気になることがあった。


リンのマシンは、ユウのスチームローラーよりはるかに乗り良かったのである。

以前に、ギヤ比を変えるのに、ちょっと試乗させてもらった時には、気づかなかったが、同じフレームで、同じギヤ比であるのにも関わらず、リンのマシンの方が、ペダルが軽く、振動が少なく、カーブもスムーズに曲がれるのだった。


それは、ユウがシティサイクルからスチームローラーに乗り換えた時と同じくらい、あるいは、それ以上の衝撃だった。


気のせいか、と思って、午前の授業が終わった後、昼食を手早く済ませて、もう一度、大学の周りを乗ってみる。


気のせいではなかった。


リンはすでに大学に来ているらしく、ユウのスチームローラーが駐輪場に停めてあったが、姿は見当たらない。午後の授業が終わったら、リンに聞いてみよう。とりあえず、ユウは教室に向かった。


授業が終わって、いつもの木陰のベンチに行くと、すでに、リンが座っていた。礼を言って、タイヤチューブの代金を払おうとすると、スペアのチューブを入れて、家まで帰った後、パンクしたチューブにパッチを貼って、直してから元に戻したので、お金はいらないという。


「久しぶりにパンク修理ができて、楽しかったわ〜。」リンは笑った。


ユウが、リンのマシンの方が、ずっと乗っていい感じがすると言うと、リンは付いているパーツのグレードが違う、と言いづらそうに話す。ユウのスチームローラーに付いているパーツも決して悪くはない、むしろ実用なら充分なのであるが、自転車界にも高性能なパーツというものが存在し、それらのパーツを組み合わせることによって、軽量化が図れたり、より回転がスムーズになったりして、トータルで大きな性能差がでる場合もあると言う。

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