第12話 ユウ、困らされる

ユウは、ちょっと悩んでいた。


ユウは、自転車を大学の駐輪場では駐輪場の柱に、立てかけるように停めている。

柱の脇のスペースが空いてない時は、すでに停めてある、ほかの自転車を動かして停めていた。そうすると、日によっては何台も動かさないといけない場合もある。


また、買い物などで店の前に、自転車を立てかける場所がなかなかない場合もあったりして、困ることがけっこうある。


ユウは、スチームローラーにスタンドをつけたいと考えていた。シティサイクルのような直立するセンタースタンドは、付けるのが難しそうだが、1本足のサイドスタンドなら、充分付きそうだ。


ふだんなら、すぐリンに聞いて見るのだが、リンはユウよりもシングルスピード歴が長いのに、スタンドを付けていない。何か、地雷を踏みそうな気がして、ユウは黙っていた。


ある日、いつもの木陰のベンチで、さりげなくスタンドの話題を出してみる。


すると、ユウには優しいリンの目が、つり上がった。


「なに、ユウちゃん、スタンドを付けたいの?」


「だって、便利そうじゃないですか?」


恐る恐る、言い返してみた。


リンの独演会が始まる。


いわく、スタンドで停めてあるシングルスピードは、格好良くない。


スタンドが付いたシングルスピードが走っている姿は、もっと格好良くない。


シンプルで軽いのがシングルスピードなのに、スタンドを付けると重くなる。


あのサイドスタンドは、意外と安定が悪く、風で倒れたりすることがよくある。


と、いつもは上品で物静か(とユウはリンのことを思っている)なリンが、ユウにまくし立てた。


とりあえず、リンがスタンドのことをよく思っていないことは、わかった。


ユウは、なんとか話題を変えることに成功したが、スタンドを付けるのは、しばらく保留にすることにした。


スタンドの話題が出なければ、ユウとリンの仲も円満であった。


その内、ユウもスタンドがない状態に慣れてしまい、特に困ることもなくなって、スタ ンドのことも忘れてしまった。


後年、ユウもスタンドについて聞かれると、かつてのリンのようにまくし立てて、尋ねた人を閉口させるのであった。

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