第7話 ユウ、魔法を見る

何枚かあるチェーンリングから、36の刻印があるチェーンリングを選んで、取り付ける。チェーンを戻すが、歯数が少なくなった分、チェーンリングが小さくなったので、チェーンの長さが余ってしまった。もう一度、工具で余った分を切り離してから、元どおりに繋ぐ。偶然ちょうどいい長さになって、後輪やリヤブレーキの位置は調整しないで済んだ。



先輩の説明によると、元は、前の歯車であるチェーンリングは48歯で、後ろの歯車であるフリーホイールは18歯。そうすると、ペダルを1回転させると、後輪は、約2.67回転することになる。チェーンリングを36歯に替えたので、今度は2回転。ペダル1回転で進む距離は短くなるが、その分、力がいらないのでペダルが軽く感じるとのこと。


逆に、フリーホイールの歯を大きい物にしてもいいのだが、チェーンの長さが足りなくなる場合があるので、今回はチェーンリングを替えたそうだ。



ユウは、魔法を見ているかのように、先輩の作業を見ていた。



先輩は、チェーンの油で汚れた手を洗うために、トイレに向かった。戻ってきた手には缶コーヒーが2本握られている。


「ちょっと休憩。」 そう言って、1本をユウに渡して、ピクニックシートに座り、もう1本を飲み始めた。



先輩は、これからする作業が一番神経を使うのだ、と言った。まずウォーミングアップに、簡単なラックの取付をして、次に手は汚れるが、それ程、難しくないチェーンリングの交換をする。最後にステムの交換をするが、ハンドル回りやブレーキの作業は、ミスをすると事故に繋がりかねない。


先輩は缶コーヒーを飲み干すと、気合を入れるように立ち上がった。


ステムとは、ハンドルとフレームのフロントフォークを連結するパーツであるが、先輩は、まずハンドルを固定しているステムのボルトを緩め、ハンドルを外した。次に、フロントフォークのステムの上にあるキャップを外す。フロントフォークを

固定しているボルトを緩めると、ステムを上から抜いた。


これから装着するステムは、外したステムより3センチくらい短い。その分ハンドルが近くなり、体の前傾が小さくなる。


外した時とは、逆の手順でステムとハンドルを取り付ける。


先輩は、慎重にボルトを締め付けると、ハンドルを持って前輪を持ち上げ、ゆっくり左右にハンドルを切ってみる。フロントフォークにガタがなく、かつハンドルがスムーズに左右に切れるよう、何度かやり直した。


「乗ってみて。」 先輩は、ユウを見て言った。

ユウは自分のスチームローラーにまたがって、走り出した。


ペダルは軽くなって、足の負担が大分減ったような気がする。ハンドルも近くなり、首も楽になった。ラックが付いたから、もうリュックを背負う必要もない。


先輩のおかげで、ユウの自転車の悩みは全て解決した。







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