第4話 ユウ、ハマる

ユウは、初めて乗った自転車で暗い道を走る。ちょっと寄り道しようかと思ったが、だいぶ遅くなってしまったし、何より疲れていたので、そのまま帰ることにした。玄関前に自転車を止めて、とりあえずチェーンロックをかける。


家に入ると、すかさず猫がやって来るので、頭と背中を撫でてやった。

父はすでに帰宅していた。食事を済ませて、新聞を読んでいる。


「ただいま、ユウ。」


「お帰りなさい、お父さん。」ユウは続ける。

「新しい自転車を買ったんだけど盗難が心配だから、お父さんのガレージに置かせてくれない?」


父は自動車が趣味で、国産のコンパクトカーだが、マニュアル車に乗っている。

ユウの家には、自動車を格納するためのガレージがあった。ガレージに入れてしまえば、自転車があることに気づかれない。


父は「どれどれ。」と、ユウと表に出る。ユウの自転車を見て、「サーリーのスチームローラーじゃないか!」と言った。父は自転車の知識もあるらしい。意外そうな顔で、ユウを見たが、ガレージのシャッターを開けて、自転車を壁に立てかけてくれた。ついでに、壊れたシティサイクルも回収日まで置かせてもらうことにした。


遅い夕食を済ませて、お風呂に入り、早々にベッドに向かう。猫もついて来て一緒に毛布に潜りこむ。ユウは猫のモフモフを楽しみながら、あっという間に眠りに落ちた。




翌朝、ユウはいつもの時間に起きて来た。父はすでに出勤している。


「おはよう、お母さん。」「おはよう、ユウちゃん。」


トーストの朝食をとって、身支度をする。今日はスカートはやめて、スリムジーンズをはいた。いつもはシティサイクルの前かごに入れている帆布のリュックを背負う。


「行って来ます。」ユウはガレージから自転車を出して、漕ぎ出した。


ペダルを回すと、すっと前に出る。脚の回転を少しずつ上げると、ぐいぐいと加速して行く。タイヤの回転は滑らかで、道路の路面がツルツルに感じる。自転車が勝手に動いているようだ。



「すごい、すごい、すごーい!」ユウは心の中で叫んだ。



大学にあっという間に着いた。が、時計を見るといつもと変わらない。

ユウは、興奮と満足感で汗ばんでいた。


帰りは、寄り道して、川沿いの遊歩道をゆっくり走る。


次の日も、スチームローラーで大学に行って、授業が終わるとそそくさと駐輪場に向かう。自転車を出して帰ろうとすると、後ろから呼び止められた。



「そこのあなた! ちょっと待ちなさい。」

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