第3話
耳に飛び込む嫌悪感を抱くその目覚ましの音に、吐き気を覚えつつのそのそと起き上がる。時刻は6時半。隣で眠っている兄は昨日よりもだいぶ顔色がよく僕に抱きついて寝ている修哉も幾分か顔色の回復が見て取られた。
慌ただしく苦い1日はあっという間に終わりを告げて、当たり前のように今日という朝が来る。
眠気が襲う中なんとか起き上がればカゴに入れていた制服に身を包む。
入院しているのに学校に通うというのは、些か不思議だろうが、僕にとってはこれは普通だ。
定期テストは9年連続満点で学年一位。
無遅刻無欠席で、学級委員長と生徒会長を兼任。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も良く、リーダー性もあり家柄もいい、、。
いわゆる僕はハイスペックというやつらしい。
実際自分にそんな自覚はないし容姿端麗というわけでもなければ、頭脳明晰ということでもない、ただ単に量をこなしてきただけである。
運動神経がいいというがただ単に昔からやんちゃしていたというだけの話であるし、家柄に至ってはたまたま僕が生まれ落ちたのがあの家だったというだけである。
実際僕はそこまで褒められた人間じゃないのだけれども、それなのに周りがいうその完璧な『晴』という存在でい続けるのは、きっとどこか僕の中に存在を認めて欲しいという気持ちが存在しているからだろう。
まぁそんな僕なんかの話なんてどうでも良くて、とにかく早く学校にいかなくては。
「ねむ、、、」
なんて欠伸交じりに呟いて立ち上がったところで、自分に抱きついて寝ている修哉のことに気づく。何故同じベットにいる。何故僕を抱き枕にしている。
学校に行くにはこいつのことを引きはがさなければいけないのだけれど。
そう簡単に離れてくれるとは思えない。
仕方ない、そう思いながら修哉の肩を叩きできるだけ優しく起こす。
「、、、ん、?なに、、?」
まだ少し眠そうな修哉に笑いかけると引き剥がす。
「ごめんね、学校にいかなくちゃだからさ、修哉こそ、いかなくていいの?学校」
「ん、、、、いい、サボる」
「生徒会長としてここは来いというべきなんだろうけど、まぁ怪我人だし、今日はよく休みな」
「、、、うん」
そう言って再び眠りに落ちた姿を見つめてそっと微笑ましく見つめた後、支度をすませ病室を後にした。
教室に足を踏み入れば騒音が耳に飛び込んでくる。
女子の笑い合う甲高い声や、ふざけあう男子たちのギャーギャーという騒ぎ声。
まるでスクランブル交差点の真ん中にずっとつったっているかのような、そんな感覚に陥るくらいにこの時間帯の教室というのは、、いやもっというならば、ここにくるまでの廊下がすでに騒がしかった。
結局学校なんてそんなもんだろう。
時間になれば藍色のきちんとしたスーツに身を包みメガネの奥で人のいい笑みを浮かべた教師が入ってくる。
それを合図に生徒は自分の席に着き、先程の喧騒が嘘かのように静まり返る。
息をするのも許されないかのようなシンとした空間のできあがりだ。
息苦しさで酸欠を起こしそうになる。
教師が口を開く。
空気が揺れる。
「出席確認をしましょうか」
そう言って優しく微笑みクラスの張り詰めた空気を和ませたこの学校の人気ナンバーワンの教師であるその人は、昨日その手で僕の兄を、親友を、血で赤く染め上げた人物そのものであるのだった。
一瞬こちらを見つめた彼の目にぞわりと悪寒が走る。
この人は、善人の皮を被った、、、、、、悪魔だ。
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