(11) 中京GⅠチャンピオンズカップ
翌日曜のGⅠレースも、3歳馬が話題の中心だった。
ダートの王者を決めるチャンピオンズ・カップに、プルートーが出てきたからだ。
菊花賞大敗後で馬柱欄は冴えないが、単勝1、3倍の圧倒的人気。芝路線では1戦級に劣るが、ダートでならそれこそタイムシーフ、フレア並みだとファンは感じているのだ。実際ダートは負けなしで、すべて後続をちぎっている。
鞍上の雉川は、いつもと変わらず、なんら気負いを感じさせない。ゆっくりゲートに入ると、スタートダッシュを決めてすぐ先頭に立った。「逃げの雉川」健在だ。
もっとも、中京1800メートルダートはスタート後に急坂があり、ダッシュすることを控える馬もいる。フルゲートだが、意外にもハナに立つ意思をもった陣営は少なかった。
スタンドで、大歓声を受ける。3歳戦の盛り上がりで、今年は普段以上に競馬界は話題を振りまいている。ネット馬券全盛だが、客の入りは多かった。
本当ならここに弥生が出ていれば、より盛り上がったことだろう。しかしGⅠレースに出るのは本当にむずかしい。トップジョッキーか、たまたまその路線の活躍馬をお手馬にしているジョッキーに限られる。弥生は話題こそあってもリーディングの上位ではない。また、ダートGⅠの権利を持つお手馬がいなかった。
1コーナーから2コーナーへ。だれもケンカせず、プルートーは5馬身ほどのリードをとっている。そして2番手と3番手の間も5馬身。このままぐるっと回ってきておしまい、という競馬になった。
向こう正面、(10)のハロンボウをすぎると、緩い下りになる。さすがにそう楽はさせまいと、後続が上がっていく。その波に付いていけず、2番手だった馬が呑み込まれて後方に消える。
「追ってくると、つぶれちゃうよ~」
一人旅のプルートーの鞍上で、雉川は鼻歌交じりに呟く。元々の性格もあるが、そう呟きたくなるくらいにプルートーの反応もいい。
上がってきた後続だが、そのペースに付いていけず、1頭、また1頭と脱落していく。すでに4コーナーでプルートーには大差。脚の上がり具合といい、どう見ても追い込みは不可能。ただ1頭、なんとか5馬身差を保っているのは昨年の勝ち馬シルバーゼット。鞍上のアルフォンソがいつものスマートさをかなぐり捨てて派手に追っている。
プルートー、追い出す。伸びはいい。よしよしと雉川は思う。相手は実力馬だが、こっちが伸びていれば届かないだろう、と。
中京は直線半ばで急坂がある。スタート直後に通ったところだ。そこで、プルートーは多少窮屈そうに上がっていく。ここはガマンだ。これを乗り切ればあとは平坦で楽になる。
ところが、シルバーゼットはそこを苦もなく上がる。むしろ上り坂でスピードを増したと言っていいくらいに。一気にプルートーとの差が詰まった。その差、1馬身。
そのあっという間の接近に、マイペースの雉川がギョッとし、12月というのに全身から汗を伝わせた。
他は遥か後方。2頭だけの、中京ダート直線のマッチレース。
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