第3話 奔放な苻堅に王猛も頭痛めてたし俺も呆れてた
「お、叔父上! どうか、
苻堅の城について、翌日にこれだ。慌てて掛け寄ってくる
「落ち着け、暐。まずは状況を教えてくれ」
「あ、も、申し訳ありません――お聞きください、いくら苻堅さまとは言え、やっていいことと悪いことがあるのではないでしょうか! あのお方は、夜伽の相手に、
「はぁ!?」
暐が燕から連行されるとき、人質の意味も兼ねて、家族もみんな移動させられてた。
慕容无考と慕容沖は、暐の妹と、弟だ。
夜伽、つまりはセックスの相手。言っとくがロリコンもショタホモも、この時代、それなりにゃあ、ある。
が、いくらなんでも同時なんざ、アウトもアウト過ぎる。
「――あの、うすらトンカチ!」
この件を任せるように伝え、慌てて苻堅の寝室に向かう。とは言え奴の寝室付近は屈強な兵に守られ、そう簡単にゃ入り込めない。
だから、俺の他にも、一人。
「私を通せ! このような真似、なんとしてでも止めねばならん!」
「なりません。天王の命は何人たりとも、です。特に王猛様と、」
それから、兵が俺を指差してきた。
「
指に従い、王猛が振り返る。
で、思いっ切り舌打ちした。
おーおー、大歓迎だな。
「ボスのおいたについちゃ、案外アンタとも息が合うみたいだな」
「――不本意ながらな」
死ぬ気で押し切りゃ、衛兵だって引いただろう。が、俺も王猛も、そこまで頑張り切る気にゃなれなかった。
王猛がどえらく深いため息のあと、衛兵の前から引き下がる。
苻堅さまの覚えめでたい王猛でこれじゃ、俺が変に茶々入れたって結果は変わらなさそうだ。
なら、少しでも王猛から情報を引っ張り出しとくに限る。
「天王サマ、つくづく自由だな」
そう呼び掛けると、王猛は俺をにらみ付けてきた。が、その眼力は、どうしても、弱い。
「貴様なぞに、天王の何が分かる」
「アンタほどには分からんさ。が、アンタが不安がってるのは分かる。何せ天王サマ、ご自身がこの一件でどんだけ敵作ったのかも理解できてなさそうだしな」
特に茶々入れもしてこない。
続けろ、って事か。
「天下を治めるために、俺ら慕容を引き入れる。そんなら慕容に天王の血が入るのは、俺らが天王の家族になる、って事でもある。无考に子供を産ませるってのは、ある意味じゃ正しいことなんだろう」
あえて、无考の気持ちは無視する。そこは叔父貴を追っ払った俺が抱いていい感傷じゃない。
「だが、そこに沖は要るか? 沖は男だ、子供は産めない。なら沖を囲う意味は、ただの性欲でしかない。そんな奴が本当に、无考を天下太平のために妊ませようと思ってるだなんて、誰が信じる?」
王猛は大きく、大きく息を吐く。
「しょせんは慕容か。気楽なものだ」
「あ?」
この期に及んでケンカ売ってくんですか、オッケーオッケー買うぜ、張り切って腕まくりしようと思ったが、
「天王の通婚は多岐にわたる。いわばあらゆる部族を引き入れるため、あらゆる部族に子種を振りまこう、となさっている。慕容だけではない。北の
奴は冷静だった。
まあ、俺はよその奴らのことなんか知ったこっちゃないしな。
「元から愚策だろ」
「――それを言うな」
その後も王猛は、散々苻堅のセックス狂いに文句を垂れ続けた。
いや、あきらかに王猛の方が正しいんだがな。
実際んとこ、暐の奴と会えば苻堅への恨み言ばっかだったし、そもそも俺自身、あいつの思い込みの強さにゃほとほと愛想が尽きてた。
間もなく、王猛はくたばった。俺が知らないところでも、相当心労を溜め込んだんだろうな、って思ってる。
葬式じゃ、苻堅が絶叫してた。「なぜ天は、ぼくから王猛を奪うのだ!」ってな。
馬鹿かよ、って思ったね。おまえが殺したようなもんだろうがよ。
とは言えその後も苻堅の勢いは留まるところを知らず、ついには
が、その頃にもなりゃ、俺らは苻堅に対して、完全に白け切っちまってた。
こいつに天下取らせでもしたら、暴君待ったなしだろ。
いろいろ王猛の奴にゃムカつかされたが、奴が死んじまえば、ただただ同情しかない。よくもまあ、あんなのを見捨てず、最期まで付き従ったもんだ。
よく頑張ったよ、王猛。
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