第4話
藤井の凱旋ツアーライブ当日、俺と知沙は朝起きるとすぐ、会場に向かった。しかし、とにかく暑いな。まだ午前中だというのに、気温は40度に迫ろうとしている。そして会場に着くと、俺と知沙はうだるような暑さ中、物販列に並んだ。その間昼食を取り、朝から並びに並んだ物販でサイリウムやらTシャツやらタオルを購入。予定より早い午後2時30分に開場すると、俺と知沙はそのまま会場に向かった。
会場後、俺たち2人はそれぞれの席を確認すると、アリーナ席の最前列中央だった。これから藤井が歌うステージを下から見る形にはなるが、目の前には今日使うであろうマイクが置いてあった。そして午後4時、太陽は西に傾いたが、まだサウナのように蒸し暑いサッカー場で行われた藤井の凱旋ライブは超満員の中始まった!
ライブが始まると、会場全体から聞こえる『りほっちー!』という大歓声、そして自然的に発生した地鳴りと共に、早速俺の目の前で藤井は歌っていた。藤井は歌と歌のわずかな間に着替えを完璧にこなし、激しいダンスのある曲も華麗にこなしていた。そして、ライブ開始から30分ほど経ち、MCのパートに入った。
「みなさーん!今日は暑い中来てくださりありがとうございます。藤井莉穂です。初の全国ツアー。しかも地元でのライブで、ここまでの方々が来てくれて本当に嬉しいです。今日は同級生もみんな見に来てくれると言われたので、ステージからみんなの顔が見てみたいです!」
藤井の第一声はこれだった。そして2万人はいるであろう観客に向けて笑顔を振りまく。そして最後に藤井の視線は一瞬、俺に向けられ、それと同時に再び笑顔を見せていた。その瞬間に知沙も気づいていた。知沙は「莉穂さん、絶対今もお兄ちゃんのこと好きだよ。両想いじゃん」と俺に相槌を打つ。・・・は?意味わからん。俺は知沙に「・・・何だよそれって」と言葉を返したが、「・・・鈍すぎ」と知沙に言われた。何だよそれ。マジで意味わからん。
そして、藤井は4時間のライブを見事にやり遂げた。歌の声量と上手さはもちろんのこと、ダンスや着替えのタイミングといったステージパフォーマンスも完璧にこなしていた。俺が知っている藤井は、背が小さくて運動が絶望的に苦手だったけど、その藤井はもうそこにはいなかった。
藤井が言っていた通り、帰り道に同級生と何人か遭遇した。同級生からは、「お前、野球やめたんだってな」とか「早瀬くんですらクビって、プロの世界って厳しいんだね・・・」とか言われたが。・・・お前らいい加減にしろ。余計なお世話だよ。
帰宅した後、スマホを見ると藤井からLINEが届いていた。LINEには『早瀬くん、今日来てくれてたんだね』『知沙ちゃんも一緒だったね』『2人とも最前列にいたからすぐわかっちゃった』という文章と、打ち上げの画像が送られていた。そして最後に、『打ち上げが終わったら電話します』という文章が送られていた。
藤井からの電話がかかったのはそれから2時間ほど経った頃だった。もう日付が変わろうとしていた。俺はかかってきた番号が藤井のスマホであることを確認し、電話に出る。
『早瀬くんですか?藤井です。今実家にいます。今日は早瀬くんに大事な話があって電話しました』
これが藤井の第一声だった。俺は「ああ、ライブお疲れ様。やっぱりみんな来てたぞ。
『私は今でも早瀬くんが好きです。もちろん一人の男性としてね。ずっと野球に打ち込んでいた早瀬くんがいたから、私はここまで頑張ることができたと思うの』
え?それって・・・俺は藤井の言っていることが何が何だがわからなくなったので、一瞬間を置き、状況の整理をする。そして出た結末は・・・知沙が言ってた通り、両想いじゃねぇか!ヤバい。嬉しい。今にも泣きそうだ。そして・・・
『・・・早瀬くん、もしかして戸惑ってる?でも、私の気持ちは本当なの。早瀬良太くん、よかったら私と付き合ってください。私は東京に住んでるから、遠距離恋愛になるけどそれでも構いません』
・・・俺の返事はこうだ。んなもん最初から決めている。なぜなら、俺も藤井のことがずっとずっと好きだったからだ。俺は藤井と離れ離れになっていたこの10年間、ずっとずっと一途に想い続けてたくらいだからな。
「俺、藤井にちゃんと好きだって言われて嬉しいよ。本当にありがとう。俺も藤井のことが好きです。もちろん一人の女性としてね」
そして、俺は藤井から告白の返事を続ける。
「藤井莉穂さん、よかったら俺と付き合ってください。まだ仕事決めてないけど、それでも付き合いたいと思っています」
ここまで嬉しいと思った瞬間はドラフトで指名された時以来だろうか。生まれた時からの夢だったプロ野球選手に人一倍、血の滲むような練習を毎日のようにした結果なれた瞬間だったからな。いや、藤井からの告白はそれを上回るかもしれない。
『やった・・・ありがとう。私、やっと早瀬くんと付き合えるようになった。嬉しい・・・私、今が人生で一番嬉しいと思ったの。武道館でライブやった時よりも嬉しい。不束者ですが、よろしくお願いします』
「俺も今、ここで藤井と付き合えるようになったことが、ドラフトで指名された時より嬉しいと思った・・・こちらこそよろしくお願いします」
藤井は電話越しでもわかるような、今まさに感動の涙を流しているような感情を出し、俺も嬉しさのあまり、感動の涙を流していた。
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